「確かに市町村合併は財政緊縮でした。役人の数はもちろん、役場の出先機関である拠点も減りました。でも、倉敷を優先させて、とか真備を後回しになんてことはないし、できる限り公平にカネも時間も、人も配分している。そりゃ以前と比べればそれらが減っています。でも、旧倉敷市だって減ったんです。被災地でも、懸命にやっている職員に食ってかかってきた人たちがいました。うちの町を見捨てた、都会優先か……と。でもそれは違うんです」
職員数の削減や新規採用の抑制は真備町だけの話ではなく、新しく生まれた倉敷市全体に適用されていたし、このときの市町村合併では、その後、五年にわたって市町村合併支援特別交付金を受け取っている。何よりこの合併は、高齢化が進み財政が厳しい地元を立て直すために、住民投票の結果、決まったことだ。
今回の災害対応が自分の思うようになっていないのは、13年も前の市町村合併が苦境の原因だと、やり場のない怒りをぶつける声はあちこちで聞こえる。
しかし現実は、真備町をはじめ、倉敷市内の被災地域の救援活動に当たった防衛省関係者、消防関係者から聞かれたのは「二次災害の恐れがあるから、できるところから順番に回った」という事実があるのみだ。奥まった田舎や、山に近い地域、決壊した堤防近くなどは“後回し”ではなく、様々な準備、想定をした上でしか救援活動を行えない。自衛隊や消防職員ならだれでもが近づける場所でもないのだ。
奥まった田舎や、山に近い地域、決壊した堤防近くなどは“後回し”ではなく、様々な準備、想定をした上でしか救援活動を行えない。自衛隊や消防職員ならだれでもが近づける場所でもないのだ。
ツイッター上には、松本さんと同じように「無視された」「××地域だけが優先された」「ボランティアが来ているのは○○だけ」といった、被災者らの書き込みが今も残っている。広島県三原市在住で、自宅が床上浸水の被害にあった愛佳さん(仮名・十代)も、ツイッター上で恨み節をつぶやいていた一人だ。
「うちは三原市の本郷町ですが、旧三原市のほうばかりが報道されて、ボランティアだってあっちにしか来てない。支援物資も水も、マスコミも来なかったですよ! 被災地格差じゃないですか!」
愛佳さんもまた、旧三原市と旧郡部の「被災地格差」を訴えており、ネット上ではこうした書き込みに「ひどい」「政治家は何をしている」「マスコミは仕事をしろ」といった返信コメントが相次いでいた。
しかしやはり、こうした憶測は事実ではない。自衛隊、消防関係者が話す通り、粛々と、出来ることから支援や復旧をやっていただけで、特定の地域を後回しにしたり、無視したという事実はない。むしろ、松本さんの憶測や愛佳さんの書き込み、それに反応したネットユーザーらの不確かな情報発信が、被災地の最前線を混乱させることにもなりかねない。倉敷市の別の職員も次のように証言する。
「市役所や市役所の支所にも、ネットで情報を得たという人たちから情報提供が多数あったようですが、中には、仕事をしていないと何十分も愚痴を言ってくる人までいたのです。また、間違った情報を押し付けてきては”あなたたちは自分さえよければいいのか”といわれる始末……」
こういった、ネット情報をもとにした人々の混乱は、SNSの罠に陥っているからではないかと思われる。その罠のひとつに、かなり以前に起きた出来事を、自分のタイムラインに「いま」表示されると、「いま起きたこと」だと思い込んでしまう問題がある。たとえ写真付きでつぶやかれていても、その写真はすでに解決済みの出来事だということが少なくない。また、自分のSNSアカウントが多くの人に注目されるため、何年も前の別の事象にまつわる写真を勝手に借用し、しかも悪意なくつぶやく人もいる。そういった迷惑つぶやきは、これまでもたびたび問題になってきた。