「心情や心象を伝えるのに、『食う』という作業に勝るものはないと思っています。食べる時は、観る人に真剣に食べていると伝わるようにしたい。
僕が役者を始める前にね、『座頭市』シリーズで勝(新太郎)さん演じる市が、白湯をかけた茶漬けに沢庵を食うのを見た。抜群に美味そうで、沢庵が好きじゃなかったのに食うようになったんです。美味そうにメシが食えない役者はだめだと思った。劇中の炒飯はそれほど美味くなかったんだけど(笑い)」
旧知のスタッフが「浩市さんの作った炒飯は美味しい」と言うと、表情を緩めて“佐藤浩市の炒飯”を明かしてくれた。
「コロッケとかメンチカツとか、夕べの残りを入れて、味付けもソース味とかいろいろ。酒のつまみも冷蔵庫のありもので作りますが、その時々に自分の流行がある。以前は山わさび、今はアミエビで、何にでも使う(笑い)。坊主がちっちゃい頃は簡単なものを作ってやったけど、父の味ってほど大層なものじゃない。芝居と一緒で得意分野はないです」
ニヤリとはぐらかしつつ、その優しい眼差しに男親としての深い愛を滲ませた。
●さとう・こういち/1960年生まれ、東京都出身。1981年に『青春の門』で映画デビューを果たし、第24回ブルーリボン賞新人賞受賞。映画、ドラマ、CMと幅広く活躍。『忠臣蔵外伝四谷怪談』(1994年)、『64-ロクヨン-前編』(2016年)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、『ホワイトアウト』(2000年)、『壬生義士伝』(2003年)で同最優秀助演男優賞を受賞。9月21日(金)夜9時~、テレビ東京開局55周年特別企画ドラマスペシャル『Aではない君と』(薬丸岳原作)で犯罪加害者の父という難役を演じる。現在、2019年公開予定の映画『ザ・ファブル』『記憶にございません!』を撮影中。
■撮影/野村誠一 ■取材・文/渡部美也
※週刊ポスト2018年9月14日号