この体験は、多くの人が「すぐ死ぬんだから」と口走ってしまう理由を内館氏に痛感させた。
「でも、そう言えば何でも許されるわけではありません。汚れた格好でヨレヨレと歩いて、口を開けば“すぐ死ぬから放っといて”と言われる周囲はたまったもんじゃありません。そんな生き方は、年齢を重ねて達観したのではなく、自分で自分の人生を放棄する『セルフネグレクト』でしかない」
作中、ハナは同期会で再会した女性の服装をバッサリと切って捨てる。
〈ウェストで切りかえのない、袋のようなズドンとしたワンピースを着ていた。グレーのジャージ素材だ。こういう伸び縮みのする素材や、体を締めつけない服を着るのはバアサンの証拠。「楽が一番」という精神に退化している〉
内館氏が続ける。
「虚無の中にいるようにあきらめたって、決して楽じゃない。いつ終わるともわからないつらい時間に放り込まれるだけです。それならば、ハナのようにとにかくきれいにして、年相応に見られたくないって抗うのは、すごく大変で苦しいことではあるけれど、やっぱり元気になるんですよ。めいっぱい楽しんで生きて、長すぎる余生を歓迎したほうが幸せなのではないかと」