これまで「がん予防薬」が存在しなかったのはなぜなのか。北品川藤クリニック院長の石原藤樹医師が解説する。

「がんの発生メカニズムが完全には解明されていないことが挙げられます。インフルエンザや麻疹、水疱瘡など予防接種がある病気は、どうやって起きるかがわかっている。だからワクチンが作れているのです」

 別の問題点を指摘するのは前出・室井氏だ。

「病気が治るかどうかの証明よりも予防効果を証明するほうがはるかにコストがかかる。病気にならない人を含め、膨大な人数に薬を投与して長期間の追跡調査をしなくてはならず、メーカーは採算がとれない」

 こういった事情もあり、巨額の資金と、数十年という長い時間が必要となる新薬開発ではなく、すでに使われている既存薬に新たな薬効を見出す「既存薬開発(ドラッグ・リポジショニング)」の研究が近年さかんに行なわれている。

 2016年3月、横浜市立大学のチームが医学誌『ランセット オンコロジー』に発表した研究内容は世界中から注目を集めた。糖尿病治療薬『メトホルミン』が大腸がんを予防する可能性があることが、世界で初めて示されたのだ。研究チームのひとり、横浜市立大学診療講師の日暮琢磨医師が話す。

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