佐藤:安倍政権には、覚悟も怖さも感じない。束ね切れない存在を排除するという論理なくして、ファシズムは成り立ちません。戦前の日本も従わない人たちを非国民として排除したでしょう。
片山:排除のためには憲兵隊や特高警察などの組織が不可欠ですが、確かに現政権がそこに行き着くとは思えませんね。
佐藤:現政権にはファシズムと相容れない点が、もう一つあります。それが反エリート主義です。
片山:そこは強力な統制国家との違いですね。
佐藤:政権中枢は、保守、右翼がエリートに虐げられてきたという強い被害者意識を持っているでしょう。
片山:その感情は、左派やリベラル派への怨念としか形容できません。ファシズムの本質がエリート政治とするなら、ルサンチマンが原動力では弱いですね。現政権のファシズムも未完に終わる運命でしょうか。
【PROFILE】かたやま・もりひで/1963年生まれ。慶應大学法学部教授。思想史研究者。慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞受賞。近著に『「五箇条の誓文」で解く日本史』。
【PROFILE】さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』など。片山杜秀氏との本誌対談をまとめた『平成史』が発売中。
※SAPIO2018年9・10月号