◆さだまさしは「60歳で引退」を考えていた

飯塚:『生さだ』も100回をとうに超え、いろんなハプニングや出来事がありましたが、2008年10月にお台場のフジテレビから『生さだ』を放送したのは、結構な事件だったんじゃないかなあ。

井上:当時のフジテレビ編成制作局長から『眉山』の映画化PRのハガキが来て、普通、フジの社員の手紙をNHKで読む、ということはあり得ないんですが、『生さだ』だからできてしまった。

飯塚:それでさださんが、「読んであげたんだから、お礼にスタジオを貸してよ」と無茶振りしたもんだから大変なことになって(苦笑)。フジの協力を得て、球体展望台の中からフジテレビの技術のスタッフによって、映像をNHKに飛ばしたという。さださんはこういうトライを非常に面白がってくれて、積極的に乗ってくれるんです。

井上:僕は、東日本大震災の1カ月後に急遽放送した回が印象に残っていますね。

飯塚:あの時、さださんに、「これ、やれたらやりますか」って言ったら「やろう!」って即決してくれて。放送枠がない時点での編成への提案だったんですが、うまく空きを見つけてくれて、さださんもスケジュールを調整してくれました。被災地の人はテレビが観られない、という理由で、ラジオでも放送しました。

井上:観覧の方も入れずに、スタッフのみ。インフラの復旧などの問題もあったので、この時は特別にメールでもお便りを募集しました。2000通以上集まったのを覚えています。そのあといろんなところで口にされてますけど、さださん、実は60歳で引退しようと考えていたそうなんですね。この時59歳ですから、翌年の2012年には辞めようと思っていたということです。「俺は何をバカなことを考えていたんだろう。まだまだ必要とされる自分がいるなら、続けていくのが『さだまさし』じゃないか」とおっしゃっていました。

飯塚:あの放送は、「何か聴いている人に意味のあることを届けたい」という思いがありました。テレビというメディアは、面白ければいいじゃないか、というスタンスで走り続けてきた側面もあるんですが、面白さやスピードだけになってしまうと、芯がなくなってしまう。そうじゃなくて、伝えるべきものをきちんと伝えようよという思いが、さださんにもスタッフの中にもありました。

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