国内

スイスでの安楽死、薬剤投与から死に至るまで20秒

「自分が死んでから夫がひとりでイギリスに帰る姿を想像したくなかった」と話すサンドラさんは、ひとりでスイスにやってきた(写真/宮下氏提供)

 自民党が終末期医療の在り方を規定する新法作成の整理に入った。尊厳死・安楽死について国内の議論が大きく動き出そうとしている──。

 脚本家の橋田壽賀子さん(93才)は、昨年刊行した著書『安楽死で死なせて下さい』(文春新書)で、「認知症になったら人に迷惑をかける前にスイスで安楽死したい」と主張した。安楽死を求める日本人が「スイス」という国名を口にするのには理由がある。安楽死を認める国のうち「外国人の受け入れ」を許可するのはスイスだけなのだ。実は、スイスのある団体の統計によれば、この3年間で3人の日本人が現地に渡って安楽死している。

2年の歳月をかけて世界6か国を訪問し、2017年12月に安楽死に関する取材をまとめた『安楽死を遂げるまで』(小学館)を発表したジャーナリストの宮下洋一さんはこう語る。

「厳密にいえば、スイスで認められているのは医師による『自殺幇助』です。希望者が提出した医療記録を自殺幇助団体が審査し、明確な意思を表現できる患者のみに対し、措置が下されます」 

 宮下さんは、スイスの自殺幇助団体「ライフサークル」の協力を得て、数々の外国人が「自死」する場面を現地で取材しているが、そのうちの1人が、イギリス人のサンドラ・エイバンスさん(当時68才)だ。

 中枢神経を侵す難病「多発性硬化症」を患い、断続的に続く激痛に生きる希望を失ったサンドラさんは、2016年4月、安楽死を遂げるためスイスに渡った。心疾患のため飛行機に乗れない夫をイギリスに残してのひとり旅だった。

「異国で死を迎える前日の夕方、彼女は、『私の人生は今後、改善される見込みはありません。坂を滑り落ちるだけです』と“自死の動機”を語りました。ただし、『唯一の恐怖は、夫の将来です』とも口にして、彼女がいない世の中で夫が幸せになることを願っていました」(宮下さん)

 翌朝、宮下さんは自殺幇助の現場に立ち会った。

 スイスの自殺幇助は、患者が致死薬入りの点滴のストッパーを自ら解除する方法が一般的だ。点滴を左手首に刺したサンドラさんは、医師による最終診断を受けた。「このストッパーを外すと何が起こるかわかりますか」と尋ねられると、彼女は「Yes I will die(はい、私は死ぬのです)」と躊躇することなく答えた。

「その後、夫の写真1枚1枚にキスをしたサンドラさんが自らストッパーを解除すると、ほんの20秒ほどで彼女の全身の力がスーッと抜けて、あっという間に息を引き取りました。直前まで普通にしゃべっていたので、死の瞬間を目の当たりにして“本当に止めないでよかったのか”との自責の念にかられました」(宮下さん)

◆死の直前まで明るく振る舞う

 膵臓がんを患ったスウェーデン人のヨーレル・ブンヌさん(当時68才)は2015年9月に余命半年と宣告され、夫とともにスイスを訪れた。

関連記事

トピックス

巨人を引退した長野久義、妻でテレビ朝日アナウンサーの下平さやか(左・時事通信フォト)
《結婚10年目に引退》巨人・長野久義、12歳年上妻のテレ朝・下平さやかアナが明かしていた夫への“不満” 「写真を断られて」
NEWSポストセブン
人気格闘技イベント「Breaking Down」に出場した格闘家のキム・ジェフン容疑者(35)が関税法違反などの疑いで逮捕、送検されていた(本人SNSより)
《3.5キロの“金メダル”密輸》全身タトゥーの巨漢…“元ヤクザ格闘家”キムジェフン容疑者の意外な素顔、犯行2か月前には〈娘のために一生懸命生きないと〉投稿も
NEWSポストセブン
司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
バスツアーを完遂したイボニー・ブルー(インスタグラムより)
《新入生をターゲットに…》「60人くらいと寝た」金髪美人インフルエンサー(26)、イギリスの大学めぐるバスツアーの海外進出に意欲
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【ハワイ別荘・泥沼訴訟に新展開】「大谷翔平があんたを訴えるぞ!と脅しを…」原告女性が「代理人・バレロ氏の横暴」を主張、「真美子さんと愛娘の存在」で変化か
NEWSポストセブン
小林夢果、川崎春花、阿部未悠
トリプルボギー不倫騒動のシード権争いに明暗 シーズン終盤で阿部未悠のみが圏内、川崎春花と小林夢果に残された希望は“一発逆転優勝”
週刊ポスト
ハワイ島の高級住宅開発を巡る訴訟で提訴された大谷翔平(時事通信フォト)
《テレビをつけたら大谷翔平》年間150億円…高騰し続ける大谷のCMスポンサー料、国内外で狙われる「真美子さんCM出演」の現実度
NEWSポストセブン
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
焼酎とウイスキーはロックかストレートのみで飲むスタイル
《松本の不動産王として悠々自適》「銃弾5発を浴びて生還」テコンドー協会“最強のボス”金原昇氏が語る壮絶半生と知られざる教育者の素顔
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の公判が神戸地裁で開かれた(右・時事通信)
「弟の死体で引きつけて…」祖母・母・弟をクロスボウで撃ち殺した野津英滉被告(28)、母親の遺体をリビングに引きずった「残忍すぎる理由」【公判詳報】
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン
バイプレーヤーとして存在感を増している俳優・黒田大輔さん
《⼥⼦レスラー役の⼥優さんを泣かせてしまった…》バイプレーヤー・黒田大輔に出演依頼が絶えない理由、明かした俳優人生で「一番悩んだ役」
NEWSポストセブン