件の成りすましハガキを1000件送ると、かかる費用は8万円程度。宛て先を知るための名簿仕入れ代、電話の転送業者に支払う手数料、それに「飛ばし」と呼ばれる所有者と使用者が異なる携帯電話などの購入代、使用料もかかるから、それなりの経費はかかる。それでも、10万円分のハガキにつき諸経費を引いた純利益がだいたい2万円、20万円分なら4~6万円ほどになることもあるのだという。実際に一日に何百、何千という「成りすましハガキ」を送り付けており、それによって騙される被害者が一定数いる。ハガキの枚数を多くすれば、騙される人の人数も増えるので、彼らはそれなりの金を手にすることになる。
想像よりも儲からないと思うかもしれない。しかし、雑でもいい、喋りのテクニックもあまり必要としない、誰にでもできる“シゴト”だから、ネット掲示板などやSNSなどを経由して集められた素人にやらせても成り立つ“シノギ”であることは大きい。詐欺を行うためにテクニックを磨かせたり、技を持つメンバーをそろえる必要がないことは、他の特殊詐欺に比べて格段に手軽なのだ。
「絵を描く(計画する)奴がいて、実務を統括する管理職みたいな奴がいて、あとは兵隊という関係性の中で、連中はシゴトをしています。末端や統括的な連中がパクられることは結構ありますが、絵を描いているトップがパクられることはほぼない。そこだけは徹底しています。末端がパクられても、被害者に返せる金もないし、懲役を食らってもしょせん2~3年。それまでに数百万でも数千万でも儲かっていて、金を隠してさえおけばトータルで”プラス”なんですよ。だから割がいいんです」(半グレ業界に詳しい男性)
「法務省成りすましハガキ」を実際に見た冒頭の知人もまた、その“雑な仕事っぷり”について、ハガキを通して感じたという。
「宛名はシール式のもので、名簿のデータをプリントすればいちいち書く必要もない。脅し的な文言も、どう見ても安物のプリンタなどで印刷したらしく、ところどころが擦れています。一時間もあれば何百通か、丸一日稼働すれば数万通だってハガキを作れる。いちいち電話をかけて、怪しむ相手をどうにかこうにか時間をかけて騙して…という、オレオレ詐欺みたいな煩わしさがもいらない。適当に送り付けて、誰かが騙されてくれりゃ儲けもん…というような、まさに下手な鉄砲を撃ちまくっているような印象を受けます。」(筆者の友人)
特殊詐欺で実際に逮捕される人たちに、最近では、主婦や学生といった普通の人々が利用される傾向がある。彼ら、彼女らと話をすると、自身がいなくても社会が問題なく回っていることを経験したり感じたりして、相対的な疎外感を抱いていることがよくある。どうやら、その疎外感から、世の中が変わらないなら自分ひとりの犯罪も、逮捕も刑務所もたいしたことではないと、平常心で、自分の人生を軽んじる行動をとっているようだ。
犯罪者の取り締まりは当然やるべきだ。だが、それだけで特殊詐欺は防げるのだろうか。逮捕も実刑も気にならないと、とくに覚悟もなく犯罪へ踏み出してしまう普通の人を減らすことができれば、特殊詐欺の実働要員は減らせるのではないか。そして、兵隊が集めづらくなれば、逮捕されても詐欺をした方が得だとうそぶく人の数も、減らせるのではないか。まともに働き生活する人々が損をしない仕組みづくりをしない限り、あらゆる形の特殊詐欺は無くならない。