ライフ

橘家文蔵 「お札はがし」は聴き応えある大ネタとして定着か

橘家文蔵の魅力を解説

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、橘家文蔵の聴き応えのある「大ネタ」についてお届けする。

 * * *
 豪快かつ繊細な芸風で人気の橘家文蔵。長年「文左衛門」として親しまれた彼が三代目を襲名して丸2年、今ではすっかり文蔵の名が馴染んでいる。9月2日、神保町らくごカフェで文蔵がネタ下ろしを披露する「ザ・プレミアム文蔵」を観た。

 1席目はネタ下ろしで長編『牡丹灯籠』から「お札はがし」。お露の幽霊に萩原新三郎が取り殺される有名な場面だ。文蔵はもともと怪談噺には興味がなかったが、「本当に怖いのは人間である」ということを描いていると気づき、怪談を面白いと思うようになったのだという。

 地の語りで浪人の新三郎とそれを世話する伴蔵・お峰夫婦のプロフィールを丁寧に説明してから、伴蔵とお峰の会話へ。この夫婦の会話が実にリアルで面白く、ときに滑稽噺のテイストをも交えて笑いを呼ぶ。

 その伴蔵の台詞の中で、新三郎とお露にまつわる「これまでの経緯」を手短に紹介するくだりは、聴き手に親切であると同時に、この夫婦は「お札をはがすと何が起こるか」を知っているのだと明らかにしておく、という伏線にもなっている。

 特筆すべきはお峰の可愛さ。「幽霊が毎晩来る」と亭主に聞かされて「やだ、お化けキライ!」と怖がるトーンの「可愛さの中に滲む可笑しさ」は文蔵ならでは。そんな彼女が、一転してドライに(しかもあくまで可愛く)「じゃあ幽霊に百両もらいましょうよ」と言い出すあたりに「女の怖さ」が表現されている。そして、そんな「しっかり者で可愛い女房」に言いくるめられ、新三郎が殺されると知りながらお札をはがそうと決意する伴蔵の「男の弱さ」の描きかたも見事だ。

関連キーワード

トピックス

12月9日に亡くなった小倉智昭さん
【仕事こそ人生でも最後は妻と…】小倉智昭さん、40年以上連れ添った夫婦の“心地よい距離感” 約1年前から別居も“夫婦のしあわせな日々”が再スタートしていた
女性セブン
去就が注目される甲斐拓也(時事通信フォト)
FA宣言した甲斐拓也に辛口評価 レジェンド・江本孟紀氏が首を傾げた「なんでキャッチャーはみんな同じフォームなのか」
NEWSポストセブン
10月1日、ススキノ事件の第4回公判が行われた
「激しいプレイを想像するかもしれませんが…」田村瑠奈被告(30)の母親が語る“父娘でのSMプレイ”の全貌【ススキノ首切断事件】
NEWSポストセブン
NBAレイカーズの試合観戦に訪れた大谷翔平と真美子さん(AFP=時事)
《真美子夫人との誕生日デートが話題》大谷翔平が夫婦まるごと高い好感度を維持できるワケ「腕時計は8万円SEIKO」「誕生日プレゼントは実用性重視」  
NEWSポストセブン
元夫の親友と授かり再婚をした古閑美保(時事通信フォト)
女子ゴルフ・古閑美保が“元夫の親友”と授かり再婚 過去の路上ハグで“略奪愛”疑惑浮上するもきっぱり否定、けじめをつけた上で交際に発展
女性セブン
六代目山口組の司忍組長。今年刊行された「山口組新報」では82歳の誕生日を祝う記事が掲載されていた
《山口組の「事始め式」》定番のカラオケで歌う曲は…平成最大の“ラブソング”を熱唱、昭和歌謡ばかりじゃないヤクザの「気になるセットリスト」
NEWSポストセブン
12月9日に亡くなった小倉智昭さん
小倉智昭さん、新たながんが見つかる度に口にしていた“初期対応”への後悔 「どうして膀胱を全部取るという選択をしなかったのか…」
女性セブン
激痩せが心配されている高橋真麻(ブログより)
《元フジアナ・高橋真麻》「骨と皮だけ…」相次ぐ“激やせ報道”に所属事務所社長が回答「スーパー元気です」
NEWSポストセブン
無罪判決に涙を流した須藤早貴被告
《紀州のドン・ファン元妻に涙の無罪判決》「真摯に裁判を受けている感じがした」“米津玄師似”の男性裁判員が語った須藤早貴被告の印象 過去公判では被告を「質問攻め」
NEWSポストセブン
12月6日に急逝した中山美穂さん
《追悼》中山美穂さん、芸能界きっての酒豪だった 妹・中山忍と通っていた焼肉店店主は「健康に気を使われていて、野菜もまんべんなく召し上がっていた」
女性セブン
トンボをはじめとした生物分野への興味関心が強いそうだ(2023年9月、東京・港区。撮影/JMPA)
《倍率3倍を勝ち抜いた》悠仁さま「合格」の背景に“筑波チーム” 推薦書類を作成した校長も筑波大出身、筑附高に大学教員が続々
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
【入浴中の不慮の事故、沈黙守るワイルド恋人】中山美穂さん、最後の交際相手は「9歳年下」「大好きな音楽活動でわかりあえる」一緒に立つはずだったビルボード
NEWSポストセブン