タム・チーさんは2000年に来日。2つの大学で仏教を学んでいたが、東日本大震災を機に、在日ベトナム人の支援に関わるようになった。その後、フェイスブックを通じて技能実習生や留学生の相談にも応じてきた。
「中絶した女性や今後の進路に不安を持つ留学生たちの心のケアをしてきました。亡くなった留学生らが保険に入っていなかった場合、フェイスブックを通じて支援金を集めます。遺族をベトナムから呼び、葬式と火葬も行います」
こうした活動が広まった背景には、「ベトナム人の信仰心の篤さがある」と、タム・チーさんは力説する。
留学中に失踪するなどし、不法滞在に置かれるベトナム人も増えている。今年7月時点でその数は約8300人に上り、4年前のほぼ6倍。犯罪も増加傾向にあり、警察庁の統計によると、2017年に日本で検挙されたベトナム人の犯罪は5140件に上り、中国人(4701件)を抜いてワースト1位となった。最近では、化粧品などを大量に万引きする事件が相次いでいる。
もちろん、ネガティブな側面だけではない。語学学校を卒業後に日本、あるいはベトナムに帰国して日系企業に就職する前例もある。
東南アジア出身の在日外国人といえばこれまで、パブで働く女性が中心層のフィリピン人が目立って多かった。しかし、ベトナムの台頭により、在日外国人社会は今、新たな局面を迎えている。
【PROFILE】みずたに・たけひで/1975年三重県桑名市生まれ。上智大学外国語学部卒業。現在、東京山谷を拠点にノンフィクションライターとして活動中。2011年『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』で開高健賞受賞。近著に『だから、居場所が欲しかった。』。
※SAPIO2018年11・12月号