松戸市界隈を皮切りに、在日ベトナム人社会に私が関心を持つようになったのは、ベトナム人女児、レェ・ティ・ニャット・リンちゃん(当時9)が殺害された事件の取材がきっかけだ。同市六実第二小学校3年生だったリンちゃんは昨年3月、登校途中で行方不明になり、千葉県我孫子市の排水路脇で遺体となって発見された。犯人は、リンちゃん宅近くのマンションに住む自称不動産賃貸業、澁谷恭正(47歳。一審判決で無期懲役、現在控訴中)。澁谷は保護者会の会長という社会的立場を担っていたため、その姿とは裏腹な凶悪さに世間の耳目が集まった。
だが、私がむしろ気になったのは、留学生などとは異なり、自分の子供が日本の小学校に通い、一家で移住するという在日ベトナム人社会の新しい一面だ。
新松戸駅周辺を歩くと、日本語学校だけでなく、ベトナム料理店や食材店が目につく。ベトナム人だけが集まるネットカフェもひそかに営業しており、ここでは小さなベトナム人社会が形成されている。
松戸市に在住のベトナム人は8月末現在、2171人。10年前(187人)の10倍以上に激増し、他の外国人と比べても伸び率は群を抜いている。このうち6割を占めるのが留学生だ。
日本政府は2008年、「留学生30万人計画」を打ち出し、留学生の受け入れを進めてきた。この結果、中国人、韓国人を中心に増えてきたが、ことベトナム人の激増については、東日本大震災がきっかけだったと、ある日本語学校の担当者は言う。
「震災による放射能被害の影響を気にして、中国人、韓国人の留学生は本国に帰国してしまいました。このため、所得水準が上がったベトナムに注目し、留学生の招致に乗り出しました」
◆中国の「代替国」