その負のサイクルを断ち切ったのが、2012年に登場したCX-5以降ということになる。ライバル車と同じかそれ以上の価格帯だと商談で競合し、従来のように結局、値引きに頼らざるを得なくなる可能性が高い。逆にライバル車よりも割安な価格設定をして、充実装備や高品質な割に競合車よりもお値打ち、と消費者が受け止めれば値引きは最小限にできるケースが多くなる。
確かに、初代CX-5の投入を皮切りに、SKYACTIVエンジンと魂動デザインを順次、ほかの車種にも横展開し、消費者のマツダ観も明らかに変わっていった。
最近の事例でいえば、2017年12月に発売したフラッグシップSUVで、3列シート7人乗りの「CX-8」がその代表例だ。あるモータージャーナリストは、「知り合いのボルボの技術者が、発売当初のCX-8を見て、『高品質のクルマをずいぶん安く売っているんだな』と驚いていた」と話す。丸本氏自身も「他社から安いと言われる」と吐露していた。
ちなみに、CX-8は2500ccのガソリンエンジンのベースグレードが税込み289万4400円、ガソリンエンジン最上級モデルで同375万8400円。同排気量のターボモデルが374万2200円~424万4400円だ。
マツダによると、CX-8の想定競合車は輸入車の3列シートSUV、国産車では他社のSUVというよりも、たとえばトヨタ自動車のハイエンドミニバン、「アルファード」や「ヴェルファイア」(ヴェルファイアは2500ccガソリンエンジンで337万6080円~438万3720円)などだという。これはCX-8の全長が長いため、SUVでありながらミニバン同様、3列目の広い居住性を実現したからだ。そう考えると、競合車よりは安価といえる。
CX-8同様、全長4900mm前後の輸入車SUVをみてみると、BMWの「X5」、ボルボの「XC90」、アウディの「Q7」などがあるが、これらのクルマはいずれも800万円前後かそれ以上。丸本氏は、「海外では既存のプレミアムメーカーに対する“賢い選択肢の1つ”になりたい」のだという。
高価格帯の欧州のプレミアムメーカーにガチンコ勝負を挑むというより、プレミアム志向なもののコスパ重視でもある賢い消費者への、もう1つの選択肢になればいいという考えだ。
そして、マツダが目指すプレミアムブランドへの脱皮はある意味、アウディをベンチマークにしているようだ。