本書でとった、女性たちへのアプローチのしかたもユニークである。たとえば「JKリフレ」で働く女性に話を聞くため、「リフレ」の経営者に協力を依頼。彼女たちの仕事の必需品であるスマホを充電できる部屋を「楽屋」として提供するなど、少しでも来やすくなるように工夫する。女性だけでなく、デリヘルの経営者やスタッフ、風俗情報サイトの運営会社の人からも話を聞いているのが本書の特徴のひとつだ。
「風俗業界は一般的に閉鎖的だと思われています。ですが、かつての店舗型風俗が無店舗のデリヘルに移行し、インターネット主体の営業になる過程で、IT産業からの参入がありました。元会社員という経歴の人も増えて、普通に話のできる経営者が多くなった気がします。『風テラス』と連携しているのも、脱サラの人の店が多いですね」
相談事例や取材を通して風俗の世界で働く女性たちの背景が浮かび上がる。人それぞれに働く理由は違い、本の冒頭で紹介される「JKリフレ」のように、〈必ずしも貧困ではない少女たち〉が〈荒稼ぎ〉することもあれば、幼い子供を抱え生活に困窮しても、〈車が使えなくなる〉から〈生活保護は、嫌〉だと、風俗を選択する若い母親もいる。家庭や健康面、経済面にいくつもの問題を抱え、この世界で働くしか選択肢がないという人も少なくない。
〈居場所〉もキーワードのひとつだ。〈店をやめてから居場所がなくなったように感じて、精神的に辛い〉と相談員に訴える元風俗の女性も。「デリヘルの待機場所には独特の『居場所感』みたいなものがあります」と坂爪さん。
風俗は、〈多重化した困難を抱えた女性〉だけでなく、男女を問わず、〈既存の制度や労働市場から排除された人たちを吸い寄せる世界〉でもある。〈デリヘルは、多重化した困難を抱える人たちが共に助け合い、支え合う「共助」の世界なのだ〉
「『自助』と、福祉などの『公助』のはざまにあるものが『共助』です。特に地方都市では、助け合いとしか言えない状況だと感じました。だからこそ、なかなかそこから抜けられない面もあります」