「復活した」とはいっても、全盛期の投球スタイルは見る影もない。20代までの松坂は、150キロ台の伸びのあるストレートと、打者の手元で鋭く曲がる高速スライダーで押していく本格派タイプ。この2つの武器で、名だたるスラッガーを相手に、三振の山を築いていった。
しかし今年の松坂の直球の平均球速は139キロ。最高でも144キロしか出ていない。「変化球中心の軟投派」へと変身したのだ。
データスタジアム社によれば、今季の球種の割合はカットボールが41%で直球の18%を大幅に上回る。直球の少なさは球界屈指だ。
松坂のカットボールの特徴は、直球との球速差が非常に小さいことだ。139キロ弱の直球に対し、カットボールの平均は136キロほど。ほとんど変わらないスピードで鋭く横に変化する。横浜高の先輩で、ソフトバンクなどに在籍した野球解説者の多村仁志氏がいう。
「今年対戦した打者に感想を聞くと“全部の球種が同じフォームだから遅い球でも差し込まれる”と口を揃える。手元で変化するボールを操るようになって、大輔は確実に進化している」
投球スタイルの変化に葛藤はなかったのか。同じく横浜高で松坂と同級生だった小池正晃・DeNA二軍外野守備走塁コーチは「今のスタイルこそ松坂らしい」と証言する。
「剛速球のイメージが強いでしょうけど、それは松坂の一面でしかない。高校時代から球は速かったけど、“直球が走ってない”と思ったらすぐ変化球中心に切り替えた。松坂の一番の長所は、打者との駆け引きと、自分の状態を考えてベストの投球ができることです。150キロが出るわけじゃないからこそ、最善の選択肢を必死で考えている。
この間、横浜の同級生の後藤武敏(現・楽天二軍打撃コーチ)の引退試合で一緒になって、メシを食いました。右肩の治療で日本中の病院を回っていたソフトバンク時代と比べ、見違えるほど明るい笑顔でした。やっぱりアイツは野球が大好きなんです」