1987年以来、実に30年以上続く週刊朝日の人気連載「あれも食いたい これも食いたい」を再構成したこの初新書では、丼物に町中華、〈コの字〉の居酒屋と、庶民の食を専ら扱い、多少贅沢しても鰻や一流ホテルのバーガーどまり。それも〈「帝国ホテルでハンバーガーを」〉と、わざわざ名画に擬えるところに、人目を気にする著者らしいウィットや含羞が窺える。
自炊もしかり。ある時、今や新種に押されつつあるカレーマンが無性に食べたくなった氏は、〈肉マンにカレーパンの具を移植〉する〈世紀の偉業〉に挑むことに。〈まず肉マンの開腹手術をする〉〈次にカレーパンの開腹手術をしてその内臓を取り出す〉〈手術は失敗もなく一分足らずで終わった〉〈口一杯に頬張る〉〈肉マンの具のはずなのにカレーの味がする〉〈この違和感がおいしい〉〈そしてこれは副産物なのだが、“肉マンの具のカレーパン”がすばらしくおいしい〉〈と言っても誰もためさないだろうけどね〉
「要するに、好奇心ですよ。好奇心って大人になると薄れてくるでしょ。カレーマンもなければないで普通諦めちゃうけど、こんなの、やろうと思えば誰でもできるんだよね。なのになぜかやらないんだな、みんな。
前にも僕はかっぱえびせんが口に何本入るか、試したことがあって、その後に鏡を見たんです。だって40何本よ。それが口一杯に入った自分の顔を子供なら絶対見たいと思うはずです。そういう童心入り好奇心と、細かい事が気になる天性のいじましさが、僕の場合は商売になってるんです」
例えば新米の季節、〈これだったらおかずなんか要らない〉とタレントが言うのを見て、〈本当に丼一杯のゴハンをおかず無しで食べてやろうじゃないの〉と思い立った東海林氏。が、8口目辺りから〈なーんか欲しいな〉〈なーんかは実物じゃなくてもいいな、たとえば匂いとかサ〉と思い始め、ついに20口目には冷蔵庫から明太子を取り出し、〈三粒だけ。三粒しか食べないから許して〉と誰に請うともなく請いながら、あまりのウマさに身を震わせるのだ。