芸能

『昭和元禄落語心中』岡田将生と山崎育三郎はなぜ清々しいのか

凄みを感じさせるドラマ(番組公式HPより)

 役者にとって極めてチャレンジングな作品であることは間違いないだろう。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏にはどう映っているか。

 * * *
「外から連れてくる」と書いて「外連」。けれんと読む。「外連味」に引っ張られ、魅せられてしまうドラマがあります。金曜午後10時『昭和元禄落語心中』(NHK総合)です。

 物語は──落語家八代目・有楽亭八雲(岡田将生)と、兄弟のように育ったライバル・天才落語家の助六(山崎育三郎)、二人の数奇な人生を軸に展開していきます。

 「外連」とは演劇用語で、主に歌舞伎で客の意表をつくような演出手法のことを指します。例えば舞台の上を飛ぶ「宙乗り」や、道具・背景を崩す「屋台崩し」、次々に別の人物に変身する「早変わり」、本物の水を使う「本水(ほんみず)」といった、スペクタクル的演出のことを指すことが多い。

 ですが、実は「外連」とは見世物的な演出に限らず、「本来所作事の一つの動作としての劇術であり,さらに歌舞伎の舞台機構,装置,衣装,かつらなどの発達を促進させたもの」(ブリタニカ国際大百科事典)。

 そもそもは「外」の流派の節で語ることから始まった「外連」。つまり、他の領域から様々な演出アイディアを取り込むことで、見たことのない異化効果を演劇にもたらす手法、と解釈できるでしょう。その意味で『昭和元禄落語心中』はまさに「外連味」に溢れています。

「落語」という現代ドラマの「外」にある伝統芸を取り込み、落語の稽古を重ねた役者たちが芸から吸収したもの武器にして物語を展開させていく。「テレビドラマ」という枠の中に伝統的な芸を接続させた実験が、実に新鮮です。

 落語家の風体に所作、語り口。噺の間合いと身振り手振り、羽織の脱ぎ方、扇子の扱い方、お辞儀の仕方、お茶の飲み方。芸というものは本当に難しいものだと実感。簡単には真似することのできない領域だとつくづく思います。

 それもそのはず。これまで長い時間をかけたくさんの芸人が必死に練り上げてきた結晶だから。今の役者がちょっと真似ようか、というノリでやっても無理でしょう。

 このドラマは、そうした「芸の厳しさ」を自覚しています。落語家を演じることがいかに難しいかということを痛いほど感じ、そこから出発し、なんとか格闘しようとしている。その自覚と努力がヒシヒシと感じられるからこそ、いいのです。

 江戸っ子に言わせれば、彼らの江戸弁には緩急と速度感が足りないし八雲の「あたしは…」という語り口なんて一定調子でまったりしすぎ。しかし、疑問が浮かんだとしても、「そんなこと、まあどうでもいいか」と思わせてくれる迫力がある。まさしくこのドラマの凄さです。

 岡田さんと山﨑さんは共に人気役者であり、これまでドラマやミュージカルで築いてきた実績も経験もある。しかし、安住することなく新境地を拓こう、と全身で挑んでいます。壁に向かって挑戦する人の緊張感、勝負する姿が清々しい。視聴者も、落語のレベルや筋書き以上に、役者の存在そのものの凜とした様子に引き寄せられてしまうのでしょう。

関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン