国際情報

「日米貿易戦争」が起きても日本が負けない理由

新たな二国間交渉は日本に何をもたらすか AP/AFLO

「日本はまたアメリカに譲歩した」「いや、日本は粘り強く交渉している」──9月に安倍晋三首相とトランプ米大統領が合意し、農産物や鉱工業品など「物品」の関税引き下げについて交渉に入ることになった日米TAG(物品貿易協定)に対する評価が分かれている。日本への影響は大きいのか否か? 大前研一氏が分析する。

 * * *
 日米TAG(物品貿易協定)交渉に対する懸念が噴出している。TAGについて、日本政府は「交渉の対象は物品に限られ、サービスなども含めて関税の引き下げや撤廃を定める包括的なFTA(自由貿易協定)や、投資、知的財産権、電子商取引などのルール作りも含むEPA(経済連携協定)とは異なる」と説明し、農林水産品は過去のEPAで合意した範囲が最大限とする日本の立場をアメリカが“尊重”することを日米首脳会談で確認した、としている。

 だが、アメリカ政府の認識は違う。USTR(米通商代表部)のライトハイザー代表は日本に対して完全なFTA締結を目指す考えを表明し、パーデュー農務長官もTPP(環太平洋経済連携協定)や日本とEU(欧州連合)のEPAを上回る農林水産品の関税引き下げを求める考えを示唆したのである。さらに、ペンス副大統領も「日本と歴史的な自由貿易交渉(Free Trade Deal)を始める」と演説し、FTAを視野に入れた幅広い分野での貿易自由化を目指す構えを見せている。

 そもそもTAGは、日本政府の“造語”である。世界の貿易に関する協定用語には存在しない。国際間の自由貿易協定はすべてFTAと呼ばれる。実際、日米首脳会談の共同声明を見ると、「物品」だけでなく「サービスを含む他の重要分野で早期に結果が出るものについて交渉を開始する」として、投資、知的財産、不公正な貿易慣行なども交渉の対象になっている。

 だが、日本政府にはアメリカと2国間のFTA交渉に応じたらTPPやEUとのEPAを上回る譲歩を迫られるという懸念が根強く、そうなれば来年の統一地方選挙と参議院議員選挙で農家の票を中心に安倍政権への逆風になりかねないため、FTAだけは避けろというのが至上命令だった。だから、苦肉の策としてTAGという“新語”をひねり出したのである。

◆日本はいじめられて強くなった

関連記事

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト