田原もそんな雰囲気を感じ取ったのだろう。MCで「今日はもちろん、田原俊彦の曲ばかりですから。『ギンギラギンにさりげなく』はありません」と言うと、会場がドッと沸いた。
この冗談に、19歳の時から数えきれないほどのワンマンショーを重ねて着た男の技術を見た。会場の空気を瞬時に感じ取り、客層を見た上で、ひと笑い取って和ませたのだ。
近年、テレビでの田原の振る舞いを見て、ハイテンションで暴走するキャラクターという印象を持つ視聴者もいる。しかし、ステージでは落ち着いたしゃべりで観客を楽しませる技能も持ち合わせている。
MCが終わると、久保田利伸作曲で1985年のシングル『華麗なる賭け』を披露。ファンから人気が高く、歌番組全盛時代に田原も幾度となくテレビで歌った曲だが、この日の観客にとってはあまり馴染みのない曲のようだった。
2010年のシングル『シンデレラ』で華麗に踊った後、1981年のシングル『悲しみTOOヤング』で出だしのフレーズを歌い出すと、会場から「おおぉ~~~」という大歓声が上がった。
大ヒット曲の持つ力は計り知れない。観客のボルテージは一気に上がり、最後の決めポーズでスポットライトが田原を照らすと、割れんばかりの拍手が何秒間も響き渡った。
その後、会場は騒然とした。MCに入った田原が「今日は29年ぶりなんで」と言いながら、ステージから客席に降りたのだ。
母親と一緒にいた小さな女の子に「何年生? Sexy Zoneが好きなの?」と聞いたかと思えば、笑顔で2階の客席に向かって手を振りながら歩いていく。
観客は、まるで花道を歩く力士を触るように田原にタッチする。「ステイ! ステイ!」と叫びながらも、場内を一周する田原のサービス精神ぶりに、会場はさらにヒートアップしていった。