「『傍らにいた人』で書いているのは、もっぱら個人的な読書の風景です。書き手も関知しない言葉の隙間に入り込み、全体とは一見無関係な細部に躓くことも読書の喜びのうちだと感じていただければ嬉しい。明確な主張も結論もない、旧かなを平気で使うまことに地味な連載が、実利を追求する日経新聞で一年も続いたのは不思議なことですが、それを許容してくれるのが、たぶん文学という領域の強みなのでしょう」
膨大な言葉の海から言葉を獲得し、自分のものとする人は、そもそもが受け身な存在だ。その事実や目に見えない傍点に再読を通じて気づく作業は、自らを形作る細胞の成分や為すべき使命を知る作業でもある。
【プロフィール】ほりえ・としゆき/1964年岐阜県生まれ。早稲田大学第一文学部仏文専修卒、東京大学大学院フランス文学専攻博士課程単位取得退学。『おぱらばん』で三島賞、『熊の敷石』で芥川賞、『スタンス・ドット』で川端賞、『雪沼とその周辺』で谷崎賞、『河岸忘日抄』で読売文学賞、『なずな』で伊藤整文学賞、『その姿の消し方』で野間文芸賞等。2007年より早大教授。166cm、54kg、O型。先日全米図書賞を受賞した多和田葉子著『献灯使』の装画を手掛けた堀江栞氏は娘。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2018年12月21日号