秋田:ぼくらはお寺で何百年という単位でずうっと培ってきた儀礼とか慣習を引き継いで、次へとまた繫いでいきたいんです。「土に還る」って日本人の死生観のベースじゃないですか。だから、批判はしませんが、私はうちのお寺で搬送式はやらないと思います。
井上:じゃあ、ロッカー式とか仏壇式とかの納骨堂はいかがですか?
秋田:それは、まあ、許容できるというか、うちの寺でもやっていますしね。それは地に根づいているということと、お寺さんがしっかり責任を持ってなさっているところが多いんじゃないかなと思いますね。
井上:自動搬送式の「回るところ」とどう違うんですか?
秋田:いや、自動搬送式は販売とか設計、管理とか、全部デベロッパーがやっているじゃないですか。彼らの考え方は完全に収益優先で「お墓ビジネス」です。お墓には矛盾もあれば、不合理もある。完全にシステム化できないんです。そういう構造の中で出来上がったものから、生き死にの物語は引き継ぎにくいんじゃないかと思っています。
仲野:私も秋田住職の意見に賛成で、搬送式は嫌ですね(笑い)。何となく感覚ですが。うちの母親も、もし搬送式の墓を選んでたら、絶対賛成せえへんかったと思います。
井上:でも、その搬送式をご覧になったら、また違うと思います。食わず嫌いのかたは絶対多いと思うんですよ。
秋田:骨を納める高層マンションのようなお墓っていうのは、グローバルで見た場合、異様な建物だと思います。
仲野:その建物の中に1万人分ものお骨が入っていると思ったら、極めて気持ち悪いですよね。
秋田:ところが、香港とか中国が同じような問題を抱えていて、その搬送式を日本のデベロッパーが売りに行ってるんです。日本の技術力はすごいんですよ。アジアでああいったものが林立してくるのは予想されるんだけど、私にはいいとか悪いとかは言えないから。でも、食わず嫌いはいけないから、一度…。
井上:一回、ご案内しますから、来てください。
秋田:行きましょう。案外いいじゃないって、すっかり変わったら困りますけどね(笑い)。
【プロフィール】
井上理津子■いのうえ・りつこ。1955年奈良市生まれ。ノンフィクションライター。著書に『葬送の仕事師たち』『親を送る』『さいごの色街 飛田』など。最新刊はさまざまなお墓を取材した『いまどきの納骨堂 変わりゆく供養とお墓のカタチ』。
仲野徹■なかの・とおる。1957年大阪市生まれ。大阪大学大学院・医学系研究科教授。専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。著書に『こわいもの知らずの病理学講義』『(あまり)病気をしない暮らし』など。
秋田光彦■あきた・みつひこ。1955年大阪市生まれ。大蓮寺の29代目の住職、應典院代表。人生の末期を支援するエンディングサポートをNPOと協働して取り組むなど「協働」と「対話」の新しい地域教育にかかわる“おもろい住職”。
※女性セブン2019年1月1日号