当然、訪日外国人旅行者の激増も影響しているが、実際に宿泊施設を取材すると“個人旅行者”を主たるターゲットにしているという回答が多く得られる。中高年層はもちろんであるが、特に若者の増加が顕著だという。
熱海では地元や移住者の若者を中心とした活性化への取り組みもみられる。元気な熱海のキーワードは“若者”ということで、リーズナブルなゲストハウスの宿もみられるようになった。
“団体から個人へ”といえば予約形態の変化も大きい。インターネットは宿泊施設予約にも革命をもたらした。店舗のある旅行会社、いわゆるリアルエージェントは“団体旅行の手配”というイメージもある一方、オンラインエージェントと個人旅行の弾力性は実に親和的である。若者であればなおさらだろう。
このように個人旅行者増加という熱海活況を受け、宿泊施設の建設・開業が続いている。
たとえば、ラグジュアリーな施設を多く手がけるカトープレジャーグループでは、プライベート感の高さで人気の「熱海 ふふ」で新棟の増築がなされるという。熱海 ふふは隠れ家的なラグジュアリー感の高さで人気。まさにカップルを中心とした個人旅行者向きだ。
また、ビジネスホテル「ドーミーイン」で知られる共立メンテナンスでは、高級リゾートホテルブランドである既存の「ラビスタ伊豆山」に加え、「ラビスタ熱海」を着工するという。いずれも個人旅行者が主たるターゲットになるだろう。
これらは内資系であるが、新たな投資では中国資本も目立つ。中資系では短期で転売というバブルを彷彿とさせる活発な動きもみられる。
個人旅行の増加により宿泊施設でみられる傾向のひとつが“旅館のホテル化”だ。温泉や和食会席も愉しめるのは当然であるが、和室にベッドを設えたり、そもそも洋室中心というホテルライク旅館を標榜するケースもある。こうした施設の担当者に聞くと、
「畳敷きに布団というスタイルは人気がない」
「仲居さんがプライベート空間に入り込むのをよしとしないゲストが若者を中心に多い」
という。熱海で新たに誕生する施設やリニューアルのケースをみると、確かに露天風呂付きの客室や個室の食事処などを設ける施設が多い。伝統的な温泉文化の衰退を嘆く声もあるが、団体客から“新世代個人客”へというターゲットの変化に則した傾向だ。