だが、熱海の魅力のひとつは昭和の温泉地といったレトロ感でもある。往時からある大型ホテルや、街中に昔ながらの小規模な温泉旅館がいまだ見られる光景は一興。とかくラグジュアリーが注目されがちな熱海ホテルの活況ぶりであるが、リーズナブルな宿や地元の団体客に人気の施設も残っている。
とある宿泊施設の主人は、「確かに街には人が多くなったが、自分の宿が活況かといわれると厳しいものがある」と語る。個人、カップルにファミリー、三世代、訪日外国人旅行者……多様な旅行者を受け入れる懐の深さが温泉地熱海の隠れた魅力であろう。
大都市ではホテル不足が叫ばれるほどの稼働率、客室単価の上昇がみられる一方、観光地やリゾート地の繁閑差は事業者にとって大きな課題だ。繁忙日には大挙してゲストは押し寄せるが、閑散期日の稼働や単価の低迷は宿命とさえいえる。これは熱海でも同様だ。東京至近という地の利も生かし平日に足を向けさせる魅力、地道なアプローチ作りが実を伴ったホテル活況に波及していく。
熱海復活の目指す先に、往時の団体客のようなインパクト再来への待望、バブルふたたびといった浮き足立つ温泉観光地の姿があるのだとしたら、果たして多様化するいまの個人旅行者へ魅力的に映るだろうか。“熱海流おもてなし”が多くの旅行者へ感動を与える温泉地に変貌することを期待したい。
■写真提供/瀧澤信秋