◆元号候補には“パクリ”もある

 さて議論の末、会議出席者はそれぞれが推す元号案を決定する。「永和」は中院具通に攻撃されたにもかかわらず、なかなかの人気を集めた(もしかすると、具通は皆に嫌われていたのだろうか?)。

 9人が推したのは、それぞれ以下の通り。

【1】永和 【2】永和・慶長 【3】文弘 【4】永和・寛永 【5】(勘者【い】と同じ人物)永和・宝仁・寛永 【6】永和 【7】永和・延徳 【8】永和 【9】永和・延徳

 これを受けて奉行の坊城俊任は御所の台盤所に赴いた。ここに後円融天皇が出御し、太閤(前関白であり、真の権勢者)・二条良基、前関白・近衛道嗣、現在の関白・二条師良が控えていた。俊任は「永和と延徳のどちらが宜しいでしょうか。天皇にお決めいただきたいと皆が申しております」と申し上げる。天皇は15歳の青年なので、関白経験者の3人の補佐を受けて「皆が永和と申しておるのだからそれでよいだろう」とご判断が下された。そこで「応永8年を改めて永和元年となす」と決まり、天皇の「詔書」が作成された。

 改元の儀はこれで終了するが、いくつか補っておきたい。まず改元定への出席者、元号案の勘者、これらの顔ぶれを決めたのは当時の朝廷をリードしていた二条良基であろう。

 次に元号の案。これにはこの時は用いられなかったが、後に使われたものが多く含まれている。寛正、嘉慶、寛永、慶長、延徳、貞享である。勘者は以前に候補になったものをリサーチし、それも自分の提案として用いる。同じものが何度も候補になるから、こういうことが起きるのだろう。

 この事態は何を意味するか。元号の候補はみな中国の典籍を根拠としている。物知りの貴族たちはすごいな。中国の古典に通暁しているのだな、と感心しそうになるが、実はそうでもないのかもしれない。本当に古典に詳しいなら、先人の案を拝借することはないのだから。自分の考案の結果を、堂々と発表すれば良い。

 それを考えると、面白い発見がある。「永和九年」と書き出す書、といえば何か。中国の古典に詳しい方ならば容易に答えられるだろう。書道の神、書聖と尊崇される王羲之の作品としてあまりにも名高い『蘭亭序』である。

 中国では「東晋」の時代にあたる永和9年(353年)3月3日、王羲之は客を名勝・蘭亭に招き、総勢42名で曲水の宴を開いた。その時に書かれたのが『蘭亭序』であり、王羲之のものでも最高の書とされる。永和を年号とするなら誰かこれについて触れていても良いと思うのだが、それがない。日本の貴族たちの教養に疑問符を投げかけたくなる史実である。

◆平成は「あり得ない」元号だった?

 最後に「私たちの平成」について蛇足を述べて本稿を閉じることにする。朝廷は伝統を大切にする。というか、それは固執する、と言って良いほどのレベルである。それゆえに明治になるまで、朝廷はずっと基本的にこうしたやり方で元号を決定してきたと言って良い。とすると、明治より前に「平成」が改元定に提案されたら、どうなるだろうか。おそらくは即座に却下されていたに違いない。

関連記事

トピックス

発信機付きのぬいぐるみを送り被害者方を特定したとみられる大内拓実容疑者(写真右。本人SNS)
「『女はさ…(笑)』と冗談も」「初めての彼女と喜んでいたのに…」実家に“GPSぬいぐるみ”を送りアパート特定 “ストーカー魔”大内拓実容疑者とネイリスト女性の「蜜月時代」
NEWSポストセブン
女優・高橋メアリージュン(38)
《服の上からわかる“バキバキ”ボディ》高橋メアリージュン、磨き抜かれた肉体でハリウッド進出…ダークファイター映画『グラスドラゴン』でワイルドな“圧”で存在感示す
NEWSポストセブン
相撲観戦のため、国技館へ訪問された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま
《愛子さま、6年ぶり4回目の相撲観戦》天皇皇后両陛下、上皇上皇后両陛下、昭和天皇…天覧相撲のご様子をプレイバック
女性セブン
お騒がせインフルエンサーのリリー・フィリップス(Instagramより)
《目がギンギンだけどグッタリ》英・金髪インフルエンサー(24)が「これが“事後”よ」と“ビフォーアフター”動画を公開 地元メディアは「頼んでもない内部暴露」と批判
NEWSポストセブン
韓国の大手乳業会社「南陽乳業」創業者の孫娘であるファン・ハナ(Instagramより。現在は削除済み)
「知人にクスリを注射」「事件を起こしたら母親が裏で処理してくれる」カンボジアに逃亡した韓国“財閥一族の孫娘”が逮捕…ささやかれる“犯罪組織との関係”【高級マンションに潜伏】
NEWSポストセブン
1月21日に警視庁が公表した全国指名手配写真(警視庁HPより)
《トクリュウ“トップ”が指名手配》女性を性風俗店に紹介する違法スカウト集団率いる小畑寛昭容疑者、公開された写真の強烈なインパクト 「悪者の顔」に見えるのはなぜか?
NEWSポストセブン
社員らによる不正な金銭受領について記者会見するプルデンシャル生命の間原寛社長(時事通信フォト)
《顧客から31億円不正》「一攫千金狙って社員が集まっている。トップ層は年収3億円超も…」超実力主義のプルデンシャル生命元社員が明かす不正の萌芽
NEWSポストセブン
公用車が起こした死亡事故の後部座席に高市早苗氏の側近官僚が乗っていた可能性(時事通信/共同通信)
《高市早苗氏ショック》「大物官僚2名」がグシャグシャの公用車の中に…運転手が信号無視で死亡事故起こす、内閣府は「担当者が出払っている」
NEWSポストセブン
デビット・ベッカムと妻のヴィクトリア(時事通信フォト)
〈泥沼ベッカム家の絶縁騒動〉「私は嫌というほど知っている」デビット・ベッカムの“疑惑の不倫相手”が参戦、妻ヴィクトリアは“騒動スルー”でスパイス・ガールズを祝福
NEWSポストセブン
元旦にIZAMとの離婚を発表した吉岡美穂(時事通信フォト)
《やっぱり女性としてみてもらいたい…》吉岡美穂とIZAM、SNSから消えていた指輪と夫の写真「髪をバッサリ切ってボブヘアに」見受けられていた離婚の兆候
NEWSポストセブン
稀代のコメディアン・志村けん
《志村けんさんの3億円豪邸跡地》閑静な住宅街に「カン、カン」と音が…急ピッチで工事進める建設会社は“約9000万円で売り出し中”
NEWSポストセブン
バスに戻る悠仁さま(2026年1月) 
《公務直後にゲレンデ直行》悠仁さま、サークルのスキー合宿で上級者コースを颯爽と滑走 移動のバスには警察車両がぴったりマーク、ルート上の各県警がリレー形式でしっかり警護 
女性セブン