ビジネス

30代女性2人が起業した“小規模出版社”のメリットと強み

オフィスで寝袋で仮眠をとる佐藤さん

「レゾンクリエイト」は、女性2人企業。2018年、本が売れないと言われるこの時代に、出版事業をスタートした。2人が本作りに込める思いとはどんなものなのだろうか。新刊『今選ぶなら地方小規模私立大学~偏差値による進路選択からの脱却~』も好調の同社代表取締役社長の安澤真央さんと、同社の共同経営者で、ライティングコンサルタント・佐藤智さんへのインタビュー後編をお届けする。同社は書籍の取次会社を通さず、書店に直接納品する形で配本している。

◆手渡しで本を売る感覚

――お2人は出版社にも勤務していた時の同期だということですが、その出版社勤務の時とレゾンクリエイトで出版事業をスタートした時とでは、どんな違いがありましたか?

安澤:今振り返ると、出版社にいた時は、本が生まれてから死ぬまでの長い過程のごくごく一部しか担っていなかったのだなと思います。出版事業をはじめてから、すべての書店さんで何冊売っていただいたのかを日々確認しています。どんな方が買ってくれたのか、その背景には何があったのかすら思いを馳せるのです。機械的に売っていくのではなく、手渡しで本を売る感覚を持っています。

――出版社として取次会社との契約なしに、書籍を流通させることはできるんですか?

安澤 私たちは「トランスビュー方式」と呼ばれる形をとって、書籍を流通させました。『まっ直ぐに本を売る―ラディカルな出版「直取引」の方法』(石橋毅史著、苦楽堂)に詳しく方法が書かれていますが、トランスビューというじかに書店と取引をしている出版社が小規模出版社の“ハブ”となって流通を担う形が出来上がっています。レゾンクリエイトも、そこに入れていただくことにしたのです。書店さんからの注文分のみ出荷する仕組みで、返品は可能です。取次会社からの一律配本の場合は4割前後といわれる返品率が、トランスビュー方式では1割以下と通常よりもかなり低いのです。

佐藤:この方法にたどり着くまでに、出版界の第一線で活躍なさっているかたがたにお話を聞いて回りました。正直な話、私たちに知見を分けてくださったところで、そのかたがたへのメリットは1ミリもありません。しかし、みなさん心から応援してくださった。小規模出版社を始めて最も良かったことのひとつは、そうした応援してくださるかたがたに多く出会えたことです。

◆小規模だからこそ、できることがある

――2人で出版事業を立ち上げてみて、どのようなメリット・デメリットを感じていますか?

安澤:メリットとデメリットは、表裏一体ですね。出版社の業務のすべてを自分たちだけで担うのは簡単なことではありません。献本するにしたって、ひたすら手を動かして袋詰め。出版記念パーティーを開いたり、何パターンかのチラシを作ったり、ネット販売の在庫をチェックして補充依頼をかけたり…。

 これまで編集の仕事をしていたので、本を作るまではイメージしていましたが、それは出版社の仕事のごく一部でした。読者の手に届くところまで、なんなら何十年後かに書籍在庫を断裁するところまで幾重にも私たちが決断を重ねていきます。出版事業をスタートして、世に生んだ本とともに生きていくイメージとなりました。
 そのため、「超自分ごと」で書籍作りや書籍営業に向き合うことができます。

佐藤:大きな出版社ならば、体制は整っていますし、分業も可能です。スムーズにいくこともたくさんあるでしょう。しかし、小規模だからこその良さもある。例えば、機動力があるというメリット。人に惚れ込んで「この人の本を出したい!」と思えば、すぐに動きだすことができます。ニッチな分野の書籍も、前例がない企画も、「私たちが出す意味がある」と思えば世に出していきます。

 今回、奇しくも「地方所規模私立大学」の事例や意義を取り上げた書籍を作りましたが、そこには「すべての大学が東大や早稲田・慶應を目指す必要はない」という考え方が描かれています。出版社も同様だと思います。2人という規模だからこそできること、それを追求することが当社の出版事業の鍵だと思っています。

◆既存の枠を超える作り方、販売方法

関連記事

トピックス

谷本容疑者の勤務先の社長(右・共同通信)
「面接で『(前科は)ありません』と……」「“虚偽の履歴書”だった」谷本将志容疑者の勤務先社長の怒り「夏季休暇後に連絡が取れなくなっていた」【神戸・24歳女性刺殺事件】
NEWSポストセブン
(写真/共同通信)
《神戸マンション刺殺》逮捕の“金髪メッシュ男”の危なすぎる正体、大手損害保険会社員・片山恵さん(24)の親族は「見当がまったくつかない」
NEWSポストセブン
列車の冷房送風口下は取り合い(写真提供/イメージマート)
《クーラーの温度設定で意見が真っ二つ》電車内で「寒暖差で体調崩すので弱冷房車」派がいる一方で、”送風口下の取り合い”を続ける汗かき男性は「なぜ”強冷房車”がないのか」と求める
NEWSポストセブン
アメリカの女子プロテニス、サーシャ・ヴィッカリー選手(時事通信フォト)
《大坂なおみとも対戦》米・現役女子プロテニス選手、成人向けSNSで過激コンテンツを販売して海外メディアが騒然…「今まで稼いだ中で一番楽に稼げるお金」
NEWSポストセブン
ジャスティン・ビーバーの“なりすまし”が高級クラブでジャックし出禁となった(X/Instagramより)
《あまりのそっくりぶりに永久出禁》ジャスティン・ビーバー(31)の“なりすまし”が高級クラブを4分27秒ジャックの顛末
NEWSポストセブン
愛用するサメリュック
《『ドッキリGP』で7か国語を披露》“ピュアすぎる”と話題の元フィギュア日本代表・高橋成美の過酷すぎる育成時代「ハードな筋トレで身長は低いまま、生理も26歳までこず」
NEWSポストセブン
「舌出し失神KO勝ち」から42年後の真実(撮影=木村盛綱/AFLO)
【追悼ハルク・ホーガン】無名のミュージシャンが「プロレスラーになりたい」と長州力を訪問 最大の転機となったアントニオ猪木との出会い
週刊ポスト
野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘に関する訴訟があった(共同通信)
「オオタニは代理人を盾に…」黒塗りの訴状に記された“大谷翔平ビジネスのリアル”…ハワイ25億円別荘の訴訟騒動、前々からあった“不吉な予兆”
NEWSポストセブン
話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
《駆除個体は名物熊“岩尾別の母さん”》地元で評判の「大人しいクマ」が人を襲ったワケ「現場は“アリの巣が沢山出来る”ヒヤリハット地点だった」【羅臼岳ヒグマ死亡事故】
NEWSポストセブン
真美子さんが信頼を寄せる大谷翔平の代理人・ネズ・バレロ氏(時事通信)
《“訴訟でモヤモヤ”の真美子さん》スゴ腕代理人・バレロ氏に寄せる“全幅の信頼”「スイートルームにも家族で同伴」【大谷翔平のハワイ別荘訴訟騒動】
NEWSポストセブン