この田中社長の指摘は間違っていない。最大で年1億円超と聞くと日本の一般サラリーマンの感覚では高額に思えるかもしれないが、そんなことは全くない。ベンチャーキャピタルの役員やファンドマネージャーは、資金の運用結果さえ良ければ、報酬はいくらでもかまわない。
たとえば、シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタル「アンドリーセン・ホロウィッツ」を創業した著名起業家のマーク・アンドリーセン氏とベン・ホロウィッツ氏は、おそらく年100億円くらいもらっているだろう。経営者は生み出した価値に見合った報酬を得る──それが世界の常識なのである。
JICに対する高額報酬批判では、経営陣の年間報酬が首相(約4000万円)や日銀総裁(約3500万円)を上回るという政府・公的機関との差も問題になった。しかし、この議論も間違いだ。むしろ閣僚や役人の給料を、もっと高くすればよいのである。
なぜか? 分かりやすい例は中国だ。中国共産党の機関紙『人民日報』(2015年1月)によると、習近平国家主席の年収は13万6620元(約225万円)にすぎない。共産党一党支配の下では公僕の給料は低く抑えられる。そのため、権限を持っている役人の汚職が蔓延するのである。
日本の場合は人事院勧告によって国家公務員の給与を民間企業の従業員の給与水準と均衡させる仕組みになっているから、中国のような構造的な腐敗はない。だが、トップクラスの給与は民間企業のトップに比べると低いので、私はもっと引き上げるべきだと思う。
ただし、条件がある。すでに本連載で述べてきたように、AI(人工知能)隆盛の時代に、最も不要になるのが公務員の仕事である。つまり、公務員の仕事の大半は決められたことをやる定型業務だから、AIやロボットへの移行を推し進めてクリエイティブな仕事を担う人だけにすれば、公務員の数は少なくとも10分の1に削減できるはずだ。それを実現するのが政治の仕事であり、それでコストを削減できたら、その仕事に見合うだけ給料を上げればよいのである。たとえば、101兆円の予算の命運を決める首相が、その1万分の1の10億円もらっても、コストを5兆円削減してくれれば安いものだ。