売れっ子芸人として人気絶頂だった山崎邦正が、すべてのキャリアを投げ打って噺家・月亭方正に転身したのは、2008年、40歳のときだった。あれから11年。いまや1000人規模の独演会を開くほどの人気ぶりを見せる。
「今年もこの季節がやってまいりました。落語をやっていても、まだビンタされてます。痛いですわ~」
昨年末、なんばグランド花月の高座に上がった方正が枕を振ると、客席にドッと笑いが起きた。大みそかの『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで! 絶対に笑ってはいけないシリーズ』では、プロレスラー・蝶野正洋にビンタされ笑いをとるのが定番になっているが、そんな姿を見せるのはもはやこの番組だけ。方正はこう振り返る。
「噺家になる前の僕に与えられていた役割は“子供”でした。誰かにいじってもらい、おどおどしているヘタレな僕が面白いという笑い。でもそれは、自分の力でつかんだものではない。歳とともに精神的に辛くなり、自分に合う何かを模索していたんです」
そんな中、落語に心を奪われる。39歳の時、芸人仲間の東野幸治から勧められたのがきっかけだった。