◆「やる気の空洞化」はなぜ起きたのか?

 ところが、それと裏腹に仕事に対するエンゲージメント(熱意)は、どの調査結果を見ても日本人が最も低い。出世したいとか、管理職に就きたいという人も減少する一方である。また国民一人あたりのGDP(国内総生産)や国際競争力は1990年代半ばからの低下傾向に歯止めがかからないし、時間あたりの労働生産性はアメリカ、フランス、ドイツのほぼ3分の2の水準にすぎない。いわば「やる気の空洞化」が起きているのである。

 それが最も顕著な形であらわれているのが公務員ではないだろうか。では、なぜ公務員に「やる気の空洞化」が起きているのか? 考えられる理由が2つある。

 1つは人事管理、人事評価の変化である。公務員には「職務に専念する義務」が法律で定められている。ただ、何をもって職務に専念しているか否かを判断するのは解釈に委ねられる部分が大きい。

 近年はそれを厳格に運用し、勤務時間や勤務態度などを厳しくチェックする傾向にある。また国・地方とも人事考課制度の導入が義務づけられ、働きぶりが賞与や昇給などに反映されやすくなった。つまり勤務態度や勤勉さが、これまで以上に問われるようになったのである。

 もう1つはマスコミや世間の目である。公務員の仕事ぶりや言動に対してマスコミや国民・市民から厳しい目を向けられるようになり、勤務中の喫煙や短時間の離席といった細かい「ルール違反」まで大きく取りあげられる。

 また問題行動がSNSで拡散されるケースも増えている。しかし仕事の成果があがっていないとか、貢献度が低いといった問題が批判を浴びるケースはめったにない。公務員が仕事の中身より「見かけ」をよくしようと考えるのは当然だろう。

◆仕事をこなしていたら目くじらを立てない欧米

 それは世界共通の現象なのか? 疑問を解くため、私は数年前にアメリカやフランス、オーストラリアなどの役所を訪ね、公務員のマネジメントについて調査をした。

 アメリカでは5つか6つの市役所でシティマネジャー(市の最高経営責任者)に、「勤務時間中、職員が喫茶店に入ることは許されないか?」という質問をぶつけてみた。すると、どこでも「仕事をこなしている限り問題ない」という答えが返ってきた。

 消防や警察も同じだ。アメリカでは消防士がはしご車で堂々とレストランへ食事に行っているし、ヨーロッパでは警察官が制服のままパブでビールを飲んでいる。それが非難されないばかりか、店や市民からは治安によいとむしろ歓迎されているそうだ。

 彼らの働き方は、日本人の感覚からするとたるんでいるように見えるが、メリハリがはっきりしていて、いざというときには頼りになる。

 たまたま私がアメリカのボストンで買い物をしていたとき、若い男が店のガラス戸を拳でたたき割った。すると素早く一人の警官が駆けつけ、猛然と男に飛びかかり組み伏せた。凶悪犯にも単独でひるまず立ち向かう勇敢な姿は、テレビニュースなどでもしばしば映し出される。いざというとき、この勇敢さと行動力を日本の警察官に期待できるだろうか、とついつい考えてしまう。

 もちろん、これらは一つの断面に過ぎず、日本の公務員と欧米の公務員のどちらが優れているかは一概にいえない。ただ「仕事さえしっかりこなしていればよい」という欧米の考え方は、態度や勤勉さを重視する日本と好対照だ。そして国民・市民にとって仕事内容と態度や勤勉さのどちらが大切かといえば当然、前者だろう。

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン