そんななか、慰安婦問題の記録と、基金の活動を広報することを目的に『ふりかえれば、未来が見える』の制作は行なわれた。映像には日本語の字幕がつけられており、英語、韓国語、中国語版も作られた。
「日本側は当初、映像作品を国際会議などで上映し、慰安婦問題や基金の活動を韓国及び世界に向けて発信する予定でした。作品のプレビュー(試写)には基金のスタッフだけではなく内閣府の審議官等も参加していて政府公認の作品となるはずでした」(同前)
しかし同作品が日の目を見ることはなかった。上映されることなくお蔵入りとなってしまったのだ。
「非公開の理由は公表されていませんが、基金を所管する外務省は当時、作品を公開することで、再び韓国内でバッシングを受けることを怖れていたようです」(外務省関係者)
日本の首相の手紙に元慰安婦たちが涙するという貴重な映像は、こうして封印された。
◆靖国神社を訪れた元慰安婦
映像作品の元慰安婦へのインタビューで明かされているのは、日本軍の暴力や、非情な仕打ちの数々だ。その一方で、これまで語られることのなかった日本兵と慰安婦の“親交”についても明かされている。
例えば元慰安婦のチン・ギョンベンさんは、連行された先で知り合ったタナベアキラという海兵との恋について語っている。アキラは彼女の写真を持ち歩き、結婚の約束まで交わしていたという。しかし、出撃命令が下りアキラはそのまま戦死してしまう。チンさんはお互いの腕に万年筆で名前を彫ったと、寂しそうに当時を振り返っている。