折り合い無関係の一本調子の競馬で1着からコンマ5秒差の5着。馬も手応えを感じた反面、「なんか勝てない」と思うはずです。「鞍上のいうこと、聞いたほうがいいのかな」と反省するかもしれない。距離短縮の狙いは、掛かりグセのリセットなのです。
その後の調教では、繰り返しタメを作らせます。最後に脚を爆発させるための我慢を覚えさせる。馬は一本調子ではダメだと認識し(たぶん)、苦手を克服しようと頑張るわけです。ドラセナは学習能力が高かった。折り合いに不安が消えた2週後、同じ鞍上で1800mに戻して初勝利をあげました。会心の勝利です。上がり最速。4角を7番目で通過、タメを利かせた走りを見せてくれました。
距離短縮の真の狙いは、崩れた調教を立て直すこと。レースのための調教なので、なにやら逆説めいていますが、調教を生かすレースもある。調教とレースは表裏一体なのです。
ドラセナのその後は2018年5月のプリンシパルS(東京・芝2000m)と距離を延ばしたものの13着、休養をはさんだ12月中京の2000mでも結果が出ていません。しかし、気持ちは折れていない。頑張ることを覚えているはずですから。
●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後17年で中央GI勝利数24は歴代3位、現役では2位。2017年には13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。本シリーズをまとめた『競馬感性の法則』(小学館)が発売中。2021年2月で引退することを発表している。
※週刊ポスト2019年3月8日号