攻めた番組ゆえに出来不出来の差も激しい。正直、訪れる場所なんてどこでもいい。重要なことはたったひとつ、レポーターのトンマさの具合と千鳥の相性だけだ。ほぼほぼ毎週観ているが、なかでも素晴らしかったのが対長州力戦で。舞台となったのが“日本最北端の村”北海道猿払村だ。
強面の風貌に似合わず、お笑い好きで知られる長州力。バラエティ番組にリスペクトを持っているのだろう、画面越しから一生懸命さが漏れ伝わる。1人でも多くの地元民と相席するために笑顔を振りまく。しかし、それが裏目にでるから面白い。
まず、訪れたのが名産品を使った料理を提供する食堂。窓際のカウンター席を陣取る婦人2人組に目をつけた長州力は「ちょっと隣で食べていいですか?」と声をかける。今まで観てきたロケ番組ならば「いいですよ!」と快諾され、和やかな交流が描かれたもの。
しかし、『相席食堂』は良い意味でも悪い意味でもマジだ。婦人2人組は長州力の問いかけに表面上では了承したものの、本音は異なる様子。長州力が隣に座っているのにも関わらず、会話に混ぜることはない。拒むように背を向ける。そこで大悟が「待てぃボタン」をプッシュ。VTRは一時停止され、「怯えてるわぁ」と今までロケ番組で観たことがない珍妙な光景を解説していく。
再びVTRへと戻る。そこに映し出されたのは、先ほどと代わり映えのしない味気ない絵面。このシーンを観て、他の“アポなし”ロケがいかに演出されてきたもかが分かった。タレントが来たからといって誰しもが快く迎えるはずがない。殺伐とすることもあるのは必然。そういえば僕も喫茶店で原稿を書いていたら、ロケハンに来たテレビスタッフに我が物顔で場を占拠された経験がある。コチラも場所代を払っているわけで、それを乱されれば腹も立つ。
初っ端のわんぱくっぷりは裏目に出てしまったが、その後は猿払村にて温かな交流をする長州力。地元民との交流の中で、村には酪農業を営む人が多いことを知る。家々によって異なるエサを牛に与えるため、牛乳の味も変わってくることを聞き出す。そんな姿を千鳥は「いい相席しているよ」と旅立つ雛鳥を見届ける親鳥のごとき優しい目線でコメント。長州力&千鳥、ボケとツッコミが奏でる素晴らしきグルーヴに腹を抱えて笑ってしまった。
真面目な地方ロケと爆笑スタジオトークといった相反する2つの要素で成り立つ『相席食堂』。取り仕切るには絶妙なバランスが必須だ。その感覚が千鳥には備わっている。
コラムの前半で千鳥の面白さに長年気づかなかったことを記述した。僕の感性が鈍いことも一因。同時に千鳥の実力がキー局制作の番組で出し切れていなかったことも事実だろう。対してローカル局制作の『相席食堂』ではめちゃくちゃ生き生き。千鳥は、自由度が高い番組でこそ真価を発揮するのだろう。
過去、ラジオこそが芸人の特性を活かせるメディアだった。しかし、時代も変わり今ではローカル局制作番組とネットテレビもその一端を担っている。ダウンタウンと岡村隆史、太田光や上田晋也、そしてオードリーといった人気者がローカル局に冠番組を持つ。また、その番組の多くはネットやアプリで配信されている。視聴環境といった面では、キー局とローカル局の差はほぼなくなったと云える。
制作費は多いが縛りも多いキー局は仕事、制作費は少ないが自由度が高いローカル局で私事をする。人気タレントのこういった傾向は、今後も強まっていくことだろう。
●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週1度開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)