ライフ

認知症介護現場の芸術療法、上手に描こうとしないのが重要

臨床美術の教室の様子

 介護、認知症ケアの現場などでも行われている芸術療法(アートセラピー)の1つである“臨床美術”。絵画やオブジェを楽しんで作ることで脳を活性化させ、高齢者の介護予防や認知症の症状改善にも効果が期待できるという。

“ゆっくり絵を描く”など、大人になってからは遠ざかっているものの、さして特別なことではないようにも思うが、臨床美術のどんなことが高齢者を生き生き元気にさせるのか。日本臨床美術協会・常任理事の蜂谷和郎さんに聞いた。

「“絵は好きですか?”と問うと“見るのは好きだが描くのは苦手”と、多くの大人は答えます」と言う蜂谷さん。

 絵画といえば、たいていの人にとって、学校の美術の時間に“描かされた”という印象なのではないだろうか。

「たとえば1~2才の子供に画用紙と鉛筆を持たせると、喜々として描き始めます。もう少し大きくなって風景を描き、太陽を黒色で描くと周囲の大人が言うのです。“太陽は赤でしょ”と。そして“これは何?”と絵の説明を求めたりもする。

 絵を描くというのは、実は自己表現なのです。でも大人になるにつれて『絵は見た通りに近いのが上手』『みんながわかる太陽を描くことが正解』といった尺度で見るようになる。すると、描いた方は表現した自分自身が否定されるわけで、次にどう描けばよいかわからなくなる。おそらくそんなことが積み重なり、多くの人が“描くのは苦手”となるのでしょう」

 自分を表現したいという欲求は誰にも備わっているという。ここに着目し、1996年、彫刻家・金子健二氏、大宮市医師会市民病院の脳外科医・木村伸氏とカウンセラーの3人が、認知症ケアのセラピーとして研究・実践を始めたのが臨床美術。現在、全国100か所以上の高齢者・学童施設、病院で行われている。

「自分を表現しようとする意欲は、生きるエネルギーそのもの。そのエネルギーを引き出しながら、楽しんで絵を描いたり、造形をしたりするのが臨床美術の手法です。ですからまず、上手に描こうとする価値観を取り払います。そして完成した作品を、評価ではなく“受容”する。太陽を黒で描いたその人自身を受け入れて称えるのです」

 高齢になると自己表現の機会はどんどん減り、認知症などでできないことが増えて来ると自信も喪失しがちだ。でも認知症がかなり進んでも絵を描くことはできるという。

 写真は、臨床美術の教室の様子。作品に仕上げた後にはみんなで作品を見て、よいところを褒め合う時間が設けられている。

「表現する喜びは、描いた絵が受け入れられることで確かになり、自信になります。ただ、この“受容”が見守る家族には特に難しく、ついうまい下手の評価をしてしまいます。でもそこは、ご家族自身が変わるべきところです」

※女性セブン2019年3月14日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
「服のはだけた女性がビクビクと痙攣して…」防犯カメラが捉えた“両手ナイフ男”の逮捕劇と、〈浜松一飲めるガールズバー〉から失われた日常【浜松市ガールズバー店員刺殺】
NEWSポストセブン
第一子となる長女が誕生した大谷翔平と真美子さん
《左耳に2つのピアスが》地元メディアが「真美子さん」のディープフェイク映像を公開、大谷は「妻の露出に気を使う」スタンス…関係者は「驚きました」
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(27)と伊藤凛さん(26)は、ものの数分間のうちに刺殺されたとされている(飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
「ギャー!!と悲鳴が…」「血のついた黒い服の切れ端がたくさん…」常連客の山下市郎容疑者が“ククリナイフ”で深夜のバーを襲撃《浜松市ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
和久井学被告と、当時25歳だった元キャバクラ店経営者の女性・Aさん
【新宿タワマン殺人・初公判】「オフ会でBBQ、2人でお台場デートにも…」和久井学被告の弁護人が主張した25歳被害女性の「振る舞い」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(Instagramより)
《愛するネコは無事発見》遠野なぎこが明かしていた「冷房嫌い」 夏でもヒートテックで「眠っている間に脱水症状」も 【遺体の身元確認中】
NEWSポストセブン
大谷翔平がこだわる回転効率とは何か(時事通信フォト)
《メジャー自己最速164キロ記録》大谷翔平が重視する“回転効率”とは何か? 今永昇太や佐々木朗希とも違う“打ちにくい球”の正体 肩やヒジへの負担を懸念する声も
週刊ポスト
『凡夫 寺島知裕。「BUBKA」を作った男』(清談社Publico)を執筆した作家・樋口毅宏氏
「元部下として本にした。それ自体が罪滅ぼしなんです」…雑誌『BUBKA』を生み出した男の「モラハラ・セクハラ」まみれの“負の爪痕”
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
「佳子さまは大学院で学位取得」とブラジル大手通信社が“学歴デマ報道”  宮内庁は「全報道への対応は困難。訂正は求めていません」と回答
NEWSポストセブン
米田
「元祖二刀流」の米田哲也氏が大谷翔平の打撃を「乗っているよな」と評す 缶チューハイ万引き逮捕後初告白で「巨人に移籍していれば投手本塁打数は歴代1位だった」と語る
NEWSポストセブン
花田優一が語った福田典子アナへの“熱い愛”
《福田典子アナへの“熱い愛”を直撃》花田優一が語った新恋人との生活と再婚の可能性「お互いのリズムで足並みを揃えながら、寄り添って進んでいこうと思います」
週刊ポスト
生成AIを用いた佳子さまの動画が拡散されている(時事通信フォト)
「佳子さまの水着姿」「佳子さまダンス」…拡散する生成AI“ディープフェイク”に宮内庁は「必要に応じて警察庁を始めとする関係省庁等と対応を行う」
NEWSポストセブン
まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト