高額な費用がかかるインプラント治療などでも一括払いの要求をする歯科医院があるが、今後、前触れもなく休診、倒産してしまう歯科医院がさらに出てくる可能性がある。
東京商工リサーチ・情報本部情報部課長の坂田芳博氏によると、昨年倒産した歯科医院は25件。この20年間で最も多く、オーバーストア(店舗過剰)が原因だという。法人の倒産というかたちにならないものも含めた歯科診療所の廃止・休止は年間2100件超ある(平成29年医療施設調査)。
さらに、昨年9月期決算で見ると、東京商工リサーチが業績を把握している歯科医院のうち、実に36・1%が減収減益となっていた。
通院している歯科医院が、倒産した場合、患者には様々な影響が及ぶ。たとえば、保険診療で入れた銀歯のクラウンやブリッジには、2年間の保証期間があることはご存じだろうか(歯科医院が維持管理料を算定した場合)。
この期間内にクラウンが外れたり、ブリッジが破損した場合は、無償で再治療してもらえる制度だ。ただし、通院している歯科医院が倒産すると、その時点で保証期間も終了してしまう。
さらに、「カルテ」の問題もある。東日本大震災では、身元不明のご遺体を歯型で照合した。岩手県釜石市で開業する歯科医・佐々木憲一郎氏は津波の被害に遭いながら、泥だらけになった患者のカルテを集め、身元不明のご遺体の照合に奔走したという。
しかし、歯科医院が倒産した場合は夜逃げ同然の状態になり、貴重なカルテも廃棄されてしまう可能性が高い。患者が治療途中であっても、過去の治療履歴がわからなくなり、症状が以前とどう変わったかの比較もできなくなってしまう。