英会話に凝った家族がデタラメ英語で会話する『英会話』は柳家金語楼作。昭和の漫才にも通じるフレーズの数々が、なんとも懐かしい。
この世の遊びをやり尽くした若旦那があの世に遊びに行く『地獄巡り』は桂米朝が掘り起こした『地獄八景亡者戯』の東京版。寿輔十八番と言っていい演目だ。物故名人が目白押しの寄席で某噺家が「近日来演」とある、でサゲるパターンで、いつもは「古今亭寿輔」だが、ここでは「桂歌丸」と予言している。
海中に落とした財布を捜そうとガラス瓶に入って潜っていく『龍宮』は、上方では『小倉船』。竜宮城で歓待される場面でこれでもかとダジャレが繰り出されて終わりという、寄席のユルさを楽しむ一席。
『文七元結』は先代正蔵の「前半を地で手短に語り、吾妻橋から演る」型。飄々とした『死神』、客と代書屋との掛け合いが絶妙な『代書屋』も寿輔ならではの魅力がある。
現代落語の最前線を追いかけるだけでは辿り着けない「寄席の秘境」寿輔の世界を堪能できる商品だ。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2019年4月12日号