『日本銀行「失敗の本質」』の著者で朝日新聞編集委員の原真人氏
デフレではない、しかしデフレ脱却とまでは言えない──何が言いたいのか、まったくわからない、おかしな説明だ。安倍政権としても「デフレ脱却宣言」をして経済政策の成果を誇りたいはずなのに、なぜこんな説明になるのか? 実は、そこには安倍政権が抱える「パラドックス」があるという。
「安倍首相はこんなことも言っています。『今後とも日銀が2%の物価安定目標の達成に向けて大胆な金融緩和を着実に推進していくことを期待している』。デフレ脱却という成果は誇りたい、でもデフレ脱却宣言はできない。なぜなら、政府が脱却宣言すれば、日銀が異次元緩和を続ける理由がなくなってしまうからです。
安倍政権が、2回の消費増税先送りができたのも、毎年度の予算編成で100兆円規模の予算を組めるのも、日銀による大量の国債買い支えのおかげです。政府の新たな借金を日銀が事実上すべて引き受け、それに見合う紙幣を刷ってくれているからできるのです。もしデフレ脱却宣言をしてしまえば、それができなくなってしまう。政権にとって、それだけは困る、というのが本音なのだと思います」
しかし、そんな「異次元」の金融政策をいつまでも続けられるわけがない。
もともと黒田日銀も「達成期間は2年」として「短期決戦」を目指していた。だが、その後も6年にわたって発行額の5割近い大量の国債を買い続けた上に、「マイナス金利」や「上場投資信託(ETF)・不動産投資信託(J-REIT)の買い入れ」などの“奇策”を繰り出した結果、金利や株式・不動産市場は歪められ、メガバンクや地銀、生保などの経営にも大きな影響を与えるにいたっている。
原氏の著書『日本銀行「失敗の本質」』では、これらの「あいまいな戦略目的」「短期決戦志向」といった黒田日銀の金融政策の特徴が、“戦争をやめるにやめられなかった”かつての日本軍の組織的な特性と酷似していることを検証している。
「黒田日銀による国債買い支えは、いわば国民が税金を納める代わりに、日銀が紙幣を刷って、財政赤字を穴埋めしているということです。こんなことを未来永劫続けられるのなら、国民にとってこれほどありがたいことはありません。支払うべき税金が半額で済むのだから、まるで“打ち出の小槌”です。
しかし、この世に本物の打ち出の小槌など存在しません。いま何とかなっているように見えていたとしても、いずれとんでもない重荷が国民にふりかかってきます。大増税か、社会保障サービスの大幅切り下げか、政府窓口の閉鎖か。はたまた超物価高によるインフレ税か。どういうかたちであれ、負担は国民にいずれ回ってきます」