不運だったのは、この女性を支えてきた夫が、同じ病院で胃潰瘍の緊急手術を受けており、女性の臨終に立ち会えなかったことだ。女性は夫へのLINEに「とうたすかかか」と打っている。「父さん助けて」と言いたかったのか。この点も、情報がきちんと共有されていれば、女性は夫を支えるために、一時的に透析の再開を強く求めたかもしれない。同じ病院で緊急手術をしているのだ。情報を無視せず、透析で命をつなぎ、落ち着いた状態で再度話し合いを持つべきであった。この病院の行動には優しさが感じられない。

 命の終い方の決断は、簡単ではない。その人の自己決定には多角的な支えが必要だ。今回の事例は、治療を受けない選択肢や命の終い方を考えるきっかけをくれた。病院批判に終わらず、ここから議論をスタートできたらと思う。

●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。

※週刊ポスト2019年4月19日号

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