芸能

見事な落語、長編スリラーを表現した「殺しの龍玉」

落語通が蜃気楼龍玉の魅力を語る

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、長編スリラーを見事に表現した「殺しの龍玉」こと蜃気楼龍玉についてお届けする。

 * * *
 五街道雲助の三番弟子、蜃気楼龍玉。三遊亭圓朝作品や怪談噺など、重厚な作品を好むいぶし銀の演者で、人呼んで「殺しの龍玉」。3月13日、半蔵門・国立演芸場で彼の『緑林門松竹』通し口演を聴いた。

 譽石という毒薬を手に入れた者が次々と人を殺していく長編スリラー『緑林門松竹』は、『真景累ヶ淵』や『怪談牡丹灯籠』と同じく圓朝がまだ江戸の時代に書いた初期の作品で、龍玉はかつて発端から結末までを全17回の口演で語りきったことがある。その長編を龍玉が「2時間で通して演じる」ため、落語作家の本田久作氏が新たに脚色を施したのが2016年のこと。今回はその再演だ。

 室町時代に南蛮から渡った譽石は人に悪心を起こさせる魔の毒薬。長年の間に転々と持ち主を変え、根津七軒町の医者、山木秀英が所持していたが、これを盗もうと下男を装って入り込んだ新助市という悪党が、秀英の妻を殺して入手。さらに秀英も殺した新助市は、秀英の妾おすわと一緒になり前橋へ逐電した。

 三年後のある日、新助市は娘連れの老人を殺して娘を吉原へ売る。その晩、おすわは秀英との間に出来た幼い息子に新助市を殺させようとするが、返り討ちに遭って息子ともども殺される。ここまでが「上」。

「下」では江戸で女占い師を装い美人局で稼ぐ「またかのお関」という悪女が登場。昔の男だった新助市に偶然再会して譽石入手の経緯を聞くと、これを殺して譽石と百二十両を手に入れる。お関が惚れ込んでいる亭主の平吉は、世話になっている若旦那が松葉屋の常磐木という花魁を身請けするための金を工面しようとしていたが、常磐木とは新助市がかつて殺した老人の娘お時。百二十両はお時を吉原に売った金だった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン