スポーツ

阪神・藤浪は復活できるか イップス経験者、専門家の考え

投球練習中の藤浪投手。左は福原忍投手コーチ(時事通信フォト)

投球練習中の藤浪投手。左は福原忍投手コーチ(時事通信フォト)

 ゴールデンウィークの連戦で超満員に沸く甲子園球場から車で20分ほど離れた鳴尾浜球場で、ひっそりトレーニングに明け暮れる阪神・藤浪晋太郎(25)。ケガをしているわけでもない。でも投げられない。「10年に1人の逸材」とも言われた男に何が起きているのか――ノンフィクションライターの柳川悠二氏がリポートする。

 * * *
 藤浪晋太郎が表舞台から姿を消して、はや2ヶ月が経とうとしている。2013年の入団以来、阪神タイガースの先発の柱として虎党の期待を一身に背負ってきた藤浪が、大きなケガを抱えているわけでもないのに、3月12日のオープン戦以降、ウエスタンリーグの試合でも登板を回避し続けるのは、彼が抱えるイップス(Yips)がきわめて深刻だからだろう。イップスとは、スポーツの世界において、練習では当たり前にできていたことが試合で突然できなくなったり、極度の緊張状態で身体を意のままに動かせなくなったりするような症状をいう。

 大阪桐蔭高校時代の2012年、甲子園で史上7校目の春夏連覇を達成し、2013年の阪神入団から3年連続で二桁勝利を挙げた藤浪は突如、2016年から制球に苦しみ、7勝、3勝、5勝とファンの期待を裏切ってきた。とりわけ右打者を相手にした際に投じるボールが打者方向へ抜けることが顕著となり、2017年にはデッドボールによる乱闘騒ぎも頻発。今春のオープン戦でも、四死球を連発する中で試行錯誤を繰り返し、高校時代のフォームに近いスリークォーター気味に投じた試合もあった。しかし、他球団からすれば大事な選手を壊されるわけにはいかない。制球が不安定な藤浪からの死球を未然に防ごうと、左打者ばかりを打線に並べるという珍事まで起きていた。自軍の選手を守るという心情は当然理解できるものの、私には悩める藤浪をさらに心身的窮地に追い込む屈辱的な仕打ちにも思えた。自身もイップスに苦しんだ経験を持つ、元北海道日本ハムの野球解説者・岩本勉氏は言う。

「僕が入団3~4年目まで苦しんだのは、コントロールが定まらず、キャッチャーが捕れないようなところにしか投げられなくなってしまうイップスでした。遠投で120メートルを投げているのに、その直後にブルペンに入ったら足が動かなくなったこともあったし、マウンドでガタガタと手が震えだしたこともあった。嘘のような本当のイップスが球界にはたくさん存在する。ワンバウンドしか投げられなくなった投手、二塁への送球ができない捕手、短い距離の加減したボールが投げられない投手や野手……。『昔はええ選手やったのに、鳴かず飛ばずで辞めたなあ』というプロ野球選手っているやないですか? そのうち、8割以上がイップスが原因だったと僕は思います。心のコントロールが失われるので、僕はイップスを魔物と呼んでいます。藤浪の中にも魔物はいますね。完全には冒されていませんが……。イップスを公言する選手は少ないです。公言してしまえば相手に足下を見られ、ファンから野次られる。それを恐れるんです」

 藤浪もイップスであることを公に認めてはいない。しかし、いつもマウンドで同じ症状に苦しむ藤浪は、たしかに“魔物”に取り憑かれたように見える。

 ゴールデンウィークを目前に控えた4月25日、阪神の二軍本拠地である鳴尾浜球場には、570席の収容を上回る観客が溢れていた。この日のソフトバンク戦で藤浪が復帰登板予定という報道が早朝に流れたため、連休前の平日にもかかわらず阪神ファンが大挙して鳴尾浜を訪れていた。9回表。平田勝男二軍監督が投手交代をアンパイアに告げた。

「ピッチャー、る!」──る? ル? 場内アナウンスに球場はざわついた。敗色濃厚の最終回のマウンドに上がったのは、台湾出身の2年目左腕、呂彦青(ル・イェンチン)だった。結局、この日の登板はなく、さらに翌日も試合途中にブルペンで投げただけで、藤浪がマウンドに上がることはなかった。復帰登板を待ち望んでいたファンからしたら、肩透かしを食らった気分だろう。捻挫や骨折などの外傷とは違って、予後の見通しが、まるで立てられない症状――イップスであるがために、首脳陣も復帰のタイミングが計れず、本人もまた克服した確信を得られない。誰もが暗中模索の状態にあるのだろう。

 イップスは、「心の病」とも表現される。たとえば、頭部に死球を与えた経験のある投手が、“またぶつけてしまうのでは”と恐れるようになり、別人のようにコントロールが定まらなくなったケースは、漫画の世界に限った話ではない。たった一球をきっかけに、野球人生を狂わせることだってあるのだ。京都大学大学院教育学研究科の岡野憲一郎教授は、精神科医の立場でイップスの研究を進めてきた人物である。岡野教授は、イップスを「病気」と断言する。

関連記事

トピックス

ロッカールームの写真が公開された(時事通信フォト)
「かわいらしいグミ」「透明の白いボックス」大谷翔平が公開したロッカールームに映り込んでいた“ふたつの異物”の正体
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《白パーカー私服姿とは異なり…》真美子さんが1年ぶりにレッドカーペット登場、注目される“ラグジュアリーなパンツドレス姿”【大谷翔平がオールスターゲーム出場】
NEWSポストセブン
和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
【懲役15年】「ぶん殴ってでも返金させる」「そんなに刺した感触もなかった…」キャバクラ店経営女性をメッタ刺しにした和久井学被告、法廷で「後悔の念」見せず【新宿タワマン殺人・判決】
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
几帳面な字で獄中での生活や宇都宮氏への感謝を綴った、りりちゃんからの手紙
《深層レポート》「私人間やめたい」頂き女子りりちゃん、獄中からの手紙 足しげく面会に通う母親が明かした現在の様子
女性セブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン