◆「過去に聞いたことがない」人事
村山氏は、現在3人いる都庁の副知事のうち入庁年次の古い多羅尾光睦氏よりもさらに6年先輩。筆頭副知事の長谷川明氏が主計部長時代の上司にあたる。「現在の副知事にとってはやりづらいはず」(副知事経験者)とも映る。
特別秘書の個室は、知事の執務室がある都庁7階にある。6階から上がる副知事と違い、秘書の裏扉を通じて誰に悟られずにトップと会える。本来は知事と局長や都議の間をとりつぐ役目だから、歴代知事は、外部から連れてきた「身内」を充てるのが通例だ。
確かに1997年には青島幸男都知事(当時)が定年退職したばかりの都庁の前衛生局長を特別秘書に据えた例はあるが、「役人人生で最上位の副知事まで上り詰めた人がその後あえて“側用人”である特別秘書に就任する例は過去に聞いたことがない」(同前)
ちなみ現在の特別秘書の報酬は年額約1400万円で局長級(7段階で最下級の1号級)と同程度だが、過去には副知事(同2400万円)と同程度の待遇だった特別秘書もいる。
「小池流」がどのような待遇を用意して村山氏を迎えることに成功したのかはいまだ明らかにされていないが、能力の高い副知事経験者の中でも村山氏に白羽の矢が立ったのには、それなりの理由がある。
◆公明党の存在
村山氏は財務局長の在任中に「都議会のドン」こと内田茂元都議や高島直樹・自民党都連幹事長との間に太いパイプを築いた。
とりわけ2010年3月の予算議会では、市場移転をめぐって「強引な移転にNO」を掲げて躍進した都議会第1党の民主党と、移転を進める自民党・公明党との間の調整に汗をかいた。計30時間にも及んだ交渉の最前線にいて、築地再整備を検討する組織を立ち上げる譲歩を差し出して民主の顔を立てる一方、豊洲の移転先の用地取得費を含んだ予算案を認めさせた(予算案は半年間、執行停止したのち「再整備は非現実的」として再開した)。
そうした功績もあって副知事に起用されたが、わずか2年後の12年にはその職を退くことになる。石原氏が国政野党の自民党に見切りをつけて新党たちあげに傾斜していた時期に重なり、当時は既成政党とのパイプの太さが村山氏の早期退任に影響したと分析する見立ても出た。
それから7年を経て、都議会自民党との関係修復を求める小池知事にとって、村山氏はうってつけの調整役に違いない。