フォトブック『広瀬すず in なつぞら』のお渡し会に登場した広瀬すず
では、『なつぞら』の方はどうでしょうか。
重鎮といえば、まさしく柴田牧場を統括する柴田泰樹(草刈正雄)です。泰樹も厳しい判断を下します。まず、牧場に引き取った戦災孤児のなつをあえて「赤の他人」と突き放し、自分の弟子のように酪農の厳しい仕事をたたき込む。
「ちゃんと働けば、ちゃんといつか報われる日が来る」「無理に笑うことはない。謝ることもない。おまえは堂々としてろ。堂々と、ここで生きろ」「一番悪いのは、人がなんとかしてくれると思って生きることだ」と人生の基本を真正面から伝えていく。泰樹の名言の数々は、多くの視聴者の心に響き涙を誘いました。
くにと泰樹、2人の重鎮から人生を学ぶ醍醐味。共通点もありますが、違いもあります。
例えば、家を安定させるため結婚話を進めよう、と考えるあたりは2人とも似ていますが、くにには迷いがありません。
しかし、泰樹は迷う。なつを手放したくない、本当の家族にしたい一心で、十分な根回しもせず「息子と結婚せよ」となつに言い猛反発をくらってしまう。
「そんなこと一度でも思ったら、ここにはおられん。もう家族には戻れんよ。じいちゃんは私から大事な家族を奪ったんだよ」と、なつに言われ絶句してしまう泰樹は、まるでとまどう少年のようです。
純粋ゆえに拙速な行動をとってしまう泰樹。「わしは、なつ、お前と本当に家族になりたかったんだ」と語っても取り返しがつかない。「私を他人だと思ってるからでしょ!」となつに言われて黙りこむ。このあたりの厳しい応酬は、『おしん』には見られない独特の緊張感です。
おそらく『おしん』のくには、家業・米問屋を通じて複雑な人間関係を学びとり確固たる生活哲学を得た人。一方、『なつぞら』の泰樹は、ゼロから出発し自力で土地を開拓してきた人。時に少年のようなピュアさが覗くのは、大地を相手に一人格闘してきたからかもしれません。
両者の姿は違えども、魅力的な大人物であることは共通しています。もっともっと二人の重鎮の言葉を聞いてみたい、と思わせる点も。2作セット視聴による醍醐味は、今後どんなテーマへと移っていくのでしょうか。興味は尽きません。