芸能

『なつぞら』と『おしん』 カップリング視聴が生み出す効果

『なつぞら』に集うキャスト

 制作側がどれほど意図したのか定かではないが、「効果」ははっきり出ているようだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
 NHK総合午前8時の放送に先がけて、NHKBSプレミアムでは7時半から『なつぞら』が放送されています。そして、その前7時15分からは、最高視聴率62.9%と朝ドラの金字塔を打ち立てた『おしん』が再放送中。ということで、一部の熱心な朝ドラファンの間ではBSプレミアムで「2作続けて見る至福」が話題になっています。

 特に滑り出しの頃の『おしん』で描き出された東北・小作農家の「貧しさ」、口減らしのため丁稚奉公に出されるくだりはすさまじかった。だから、その後に続く『なつぞら』の戦災孤児・なつの苦労も、「安心して見ていられる」という感想が生まれたほど。いわば、カップリング視聴が生み出す、奇妙な効果です。

 そう。『おしん』と『なつぞら』をセットで見ることによって、単独の視聴では気づかないさまざまな発見がある。新しい視点が加わるのです。

 もちろん『おしん』は明治から始まり、『なつぞら』は第二次世界大戦後からと、両者はまったく違う時代を描いています。が、ともに女性主人公の成長物語であり、家族を失い単独者として苦労し格闘し生きる力を身につけていく健気さ、たくましさが描かれる点も共通している。だからこそ、2つを対照させることによって、様々な気づきや発見が生まれてくるのでしょう。

 例えば5月のこの時期、2作セット視聴を通して最も注目したいテーマは「家族における長老の役割」「その存在感」についてです。

 ご存じ『おしん』の場合、少女期に重鎮的存在として登場するのは、おしんの奉公先である米問屋・加賀屋の女当主「くに」(長岡輝子)。その存在感は、生半可ではありません。視野が広く判断が冴えている。大店を切り盛りし家を繁栄させ、奉公人も含めて全体を上手に回していくリーダーシップが実に鮮やか。特に、くにがスゴイのは既存の正義や世に流布している常識・道徳というものに寄りかかるのでなく、自分の頭で考え複眼的に判断を下す点にあります。

 例えば、周囲から見ればとても奉公人として役立ちそうもない、幼いおしんを「雇う」と決めた。理由は明解。おしんの家のような貧しい小作農が必死に米を作ってくれるおかげで、自分たち米問屋も回っている。だから人助けとしておしんを子守に迎えるのだ、と。つまり、自分の立場や利益だけでなく、産業構造全体を見据え小作農家と問屋とのつながりを留意した上での判断をするあたり、さすがです。

 あるいは、チヤホヤ甘かやされて育った加賀屋のお嬢様・孫の加代と、下っ端奉公人にすぎないおしん、その両者を共に育てあげていく手腕も光っています。妙な「平等主義」にはならず身分の違いは違いとして、しかしお互いを刺激し伸びていく方向へと上手にしむけていく。その結果、二人の間には不毛な対立ではなく共鳴が生まれていきます。そう、くには厳しくも優しく、リアリストとしての冷静さも持ち合わせた懐の深い女当主です。

関連記事

トピックス

前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(Instagram/時事通信フォト)
《ゴルフ・横田真一プロと2年前に離婚》穴井夕子が明かしていた「夫婦ゲンカ中の夫への不満」と“家庭内別居”
NEWSポストセブン
二刀流かDHか、先発かリリーフか?
【大谷翔平のWBCでの“起用法”どれが正解か?】安全策なら「日本ラウンド出場せず、決勝ラウンドのみDHで出場」、WBCが「オープン戦での調整登板の代わり」になる可能性も
週刊ポスト
高市首相の発言で中国がエスカレート(時事通信フォト)
【中国軍機がレーダー照射も】高市発言で中国がエスカレート アメリカのスタンスは? 「曖昧戦略は終焉」「日米台で連携強化」の指摘も
NEWSポストセブン
テレビ復帰は困難との見方も強い国分太一(時事通信フォト)
元TOKIO・国分太一、地上波復帰は困難でもキャンプ趣味を活かしてYouTubeで復帰するシナリオも 「参戦すればキャンプYouTuberの人気の構図が一変する可能性」
週刊ポスト
世代交代へ(元横綱・大乃国)
《熾烈な相撲協会理事選》元横綱・大乃国の芝田山親方が勇退で八角理事長“一強体制”へ 2年先を見据えた次期理事長をめぐる争いも激化へ
週刊ポスト
2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン
「交際関係とコーチ契約を解消する」と発表した都玲華(Getty Images)
女子ゴルフ・都玲華、30歳差コーチとの“禁断愛”に両親は複雑な思いか “さくらパパ”横峯良郎氏は「痛いほどわかる」「娘がこんなことになったらと考えると…」
週刊ポスト