業界3位のフジパンも、食パン「本仕込み」や「ネオバターロール」で「イーストフード・乳化剤は使用しておりません」と表示している。同様の質問をしたところ、文書で「イーストフード・乳化剤は安全な添加物です。強調表示をすることは、不使用商品が、使用している商品より安全面・健康面で優れている、また健康に良いと誤解される恐れがあると考えます」(同社マーケティング部)との回答があった。誤解が起きやすいことを認めつつ、不使用表示については「今後やめてまいります」(同前)とのこと。山崎製パンの指摘を認めたと捉えていいだろう。
不使用表示の商品を開発し、こういう表示をした経緯について、同社は「消費者ニーズを考慮し、対応可能な商品について取組みを実施し、包装紙へわかりやすく表記しておりました」(同前)と、「消費者ニーズ」に応えたためと回答している。
他の製パン会社からも、山崎製パンに対する反論は特に表立っては出ていない。
前述した“食品添加物が危ない” と主張するサイトなどでは、これまでイーストフード・乳化剤不使用を理由に、「超熟」や「本仕込み」などがもてはやされ、一方で最大手の山崎製パンはサンドバッグのように叩かれていたが、実は商品そのものにそんなに差がなかったと考えられる。
イーストフード・乳化剤がこれほど忌み嫌われていたら、表示を回避したくなる気持ちは理解できないわけではない。何の意味もないのに代替技術を開発せざるをえなかった技術者には同情さえする。
今まで「不使用」の商品を選んで買ってきた消費者は「騙された!」と怒るかもしれない。しかし、それらのパンを食べ続けて健康被害を受けた人などいないはずである。大切なのは消費者自身が科学的根拠のない情報に惑わされず、正しい知識をベースに商品を選ぶことではないか。
●取材・文/清水典之(フリーライター)