◆精神論や意気込みでは解決しない
日朝首脳会談実現に向けて米国に後押ししてもらうにしても、米国の後押しが、どのような形で行われるのかもわからない。現状では金正恩委員長への「口利き」にも達していない。
安倍首相は2019年5月16日の衆院本会議で、北朝鮮の金正恩委員長と条件をつけずに会談する方針と、拉致問題の解決には「わが国自身が主体的に取り組むことが重要」との認識を重ねて示している。
5月19日に開かれた「全拉致被害者の即時一括帰国を実現せよ! 国民大集会」に出席した安倍首相は「日朝首脳会談が行われるということについては、メドも立っていないのは事実」と苦しい胸の内を明らかにした。
問題は、「大切なことは、拉致問題の解決のために日本国民が一致団結して、全ての拉致被害者の一日も早い帰国の実現への強い意志を示していくことが大切であります。その声こそが国際社会を動かし、そして北朝鮮を動かしていくことにつながっていくと思います」と述べたことだ。
この発言は、「北朝鮮との交渉を行わなくても一致団結すれば問題は解決できる」と言っているようにも受け取れる。このような精神論で問題が解決するとは到底思えない。結局、安倍首相とトランプ大統領ができることは、口先での「圧力」や「警告」しかない。
安倍首相の演説には拉致被害者家族もさぞかし落胆したことだろう。2002年に5人の拉致被害者が帰国して以来16年以上もの間、1人の拉致被害者の帰国も実現できていないわけだが、この状態がさらに続くことになるからだ。
米国が拉致問題解決に協力するからといって、米海軍の空母を朝鮮半島近海に派遣して圧力を加えることなど出来ない。拉致問題は日米の安全保障の問題ではないため、あくまでも日本と北朝鮮の問題というのが、トランプ大統領の認識だろう。
◆北朝鮮にはアメが必要?
北朝鮮は、小泉純一郎首相と金正日総書記との2度の日朝首脳会談の時のように、100億円規模の経済支援や経済制裁の一部緩和が行われなければ、「拉致問題は解決済み」という姿勢を崩さないだろう。
日本としては不本意だが、北朝鮮に経済制裁というムチだけで対応してきた路線を転換し、アメを与える方向へ転換するしか解決策はないのかもしれない。これ以上、北朝鮮への経済制裁は強化しようがないからだ。日本は経済制裁という唯一の交渉カードを使い切ってしまった状態にある。
日本人拉致は国家ぐるみの犯罪である。本来、日本は誘拐犯である北朝鮮に妥協する必要はない。しかし、筆者は北朝鮮の肩を持つわけではないが、アメを与えなければあの国は動かない。