50年近く隣にいた人が突然いなくなった心境を問うと、「心にぽっかり穴が空いたままなんだよ…」とぽつり

「ひと言でいえばすごい人。まあ、ちょっとそこいらにはいないタイプの人だね。晩年はずいぶん穏やかになったけど、俺は妻の涙をただの一度も見たことがない。人に弱みを見せるのが大嫌いだし、絶対に弱音を吐かない。それは徹底していたね」

 弱音を吐きたい時もあったんでしょうかと聞くと、野村さんはしばらく考えて、「どうなんでしょう」とひと言。

「本にも書いたけど、子育てが苦手だったね。一時期、教育論とか講演して回っていたけど、とんでもない。前夫との間の2人の息子もそうだけど、40才を過ぎて産んだ克則も、いつの間にか自分の妹に預けっぱなしで、高校、大学は寮生活。俺に相談? そんなことをするような女じゃないですよ。全部、100%、自分の思った通りにしたい。反対なんかしようものなら、大変なことになる」

 その一方で「子供は大好きなんだよな」と野村さん。

「たとえば大きなホテルの廊下で、向こうから赤ちゃんを抱っこした人が歩いてくると必ず『わあ、かわいい。抱っこさせて~』と言い出す。見ず知らずの人にも声をかけてたね。誰だってびっくりしますよ。そして、赤ちゃんを抱っこすると、本当に幸せそうな顔をする。だけど、世話をするのは面倒くさいみたい」

 沙知代さんが並でないのは、それだけではない。家事全般が苦手というより、野村さんは掃除・洗濯をしている妻を見たことがない。

「俺もサッチーも、出会った当時はいろいろ事情があって、未入籍のまま同居してからずっと、家事はお手伝いさん任せ。本人が整理整頓している姿なんか見たことがない。『面倒くさい』が口癖でね。あ、でも料理はやればうまいんですよ。克則が生まれる前だったかな。ローストビーフを焼いてくれたことがあって、本当にうまかったね~」

 沙知代さんを語る野村さんの口調が、言葉を重ねるごとに熱を帯びてくる。亡き妻のあれこれを思い出し、怒っているようでもあり、呆れているようでもあり。愚痴っぽく聞こえるけど、どこか楽しそう。

【プロフィール】
のむらかつや/1935年6月29日、京都府生まれ。南海ホークスに入団。以来、現役生活27年の後、野球解説者として活躍。4球団で監督を務め、ヤクルトスワローズを3度、日本一に導くなど、“名将”の名をほしいままにした。選手や生活についての愛あるボヤキ節も話題になった。

(取材・文/野原広子…女性セブンの名物記者。『オバ記者』の愛称で、興味ある対象への体当たり取材を続けている)

※女性セブン2019年6月20日号

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