N700Sがデビューし、仮に時速360キロメートルで運転することが可能であったとしても、前を走るN700やN700Aは時速285キロメートルで走っている。
N700Sが時速360キロメートルで走れば、前を走るN700やN700Aに追いついてしまい、列車が“渋滞”してしまう。一本だけ速い列車が設定されてしまうと列車ダイヤは窮屈になり、一時間あたりに運転できる列車の本数はかえって減る。JR東海にとって、それは避けたい。そうした事情もあり、JR東海は時速360キロメートルを封印。これまでの新幹線と同じく、N700Sは時速285キロメートルで運行される。
せっかく時速360キロメートルで走行できるのに、全力疾走できなければ何の意味があるのか?
JR東海がN700Sの時速360キロメートルにこだわる理由は、国内市場ではなく海外進出を視野に入れていることが大きい。
国内では、東海道新幹線の信頼性や性能は十分に知れ渡っている。その一方、JR東海の海外実績は2007年に開業した台湾新幹線が真っ先に思いつくものの、海外での知名度はそれほど広まっていない。
今回の速度向上試験は、時速300キロメートル以上のスピードで走行可能なN700Sという高性能車両を海外へPRする目的がある。
そして、スピードばかり注目されがちだが、N700Sの最大ウリは柔軟な編成ができる点にある。東海道新幹線は16両が基本編成。多くの需要がある東京駅―新大阪駅間だったら、常に16両編成で運行しても問題は生じない。しかし、山陽新幹線や九州新幹線では時間帯によっては8両編成で運行されることもある。
国土の広い諸外国では、短時間で移動可能な高速鉄道を望む声は高い。しかし、東京駅―新大阪駅間のように多くの乗客が頻繁に利用するわけではない。海外で新幹線を運行する場合、16両編成では供給過多になってしまう可能性が高い。
そんな事情に合わせて、N700Sは16両編成や8両編成だけではなく、12両編成といった具合に柔軟な編成が可能な仕様になっている。
2020年の東京五輪開催は、日本がさらなる国際化に踏み出す節目の年になるだろう。JR東海にとっても、N700Sを武器にして海外進出を加速させるターニングポイントになるかもしれない。