「あいつらも騙してなんぼの世界なんでね。嘘ばっかりさ。品物を注文するから、仕入れてやっても金を払わない。依頼してきた仕事を終えて請求書を出しても代金を払わない。そんな話を何度聞いたことか。俺もバングラで土地を買ったら、すぐに上がると言われたがダメだった。ガセさ。仕事で付き合うなら、あいつらは要注意だ」
顔見知りなのか、キャバクラの前に立っていたバングラデシュ人の男がペコッと頭を下げた。カジュアルな格好にビーチサンダルをつっかけている。
「よう元気? 儲かってるかい? 悪いことしてない? 今日はクスリ、持ってるか?」
「持っていないよ、当たり前でしょ!」
男が慌てて首を横に振った。
「儲からないよ、ボチボチね。悪いことしてるの、私たちじゃない。あなたたちにやられてるよ」
顔中いっぱいに作り笑いを広げ、コソコソと立ち去っていく。
実際、バングラデシュ人経営の店は増えているという。
「やつら脱税し放題でね。3年で1億の所得を隠したやつもいたよ。もっとも捕まったけどね。それだけ儲けてるってことさ。フィリピンパブにロシアパブ、日本人のキャバクラ…と下町のネオン街では、バングラがやってる所が多いんだよ。バングラが社長だと誰も信用しないが、そういう店ほど女の子への給料は日払いだ」
刑事課の刑事に、バングラデシュ人について尋ねた時は苦い顔をされた。
「やつら、いい加減だよ。店をやっていても営業時間すら守らない。ハナから風営法なんて考えちゃいない。女の子も日払いだからすぐにいなくなる。在留しているバングラ人は配偶者が日本人の場合が多く、それが偽装なのかどうか見抜くのに時間がかかって困る」
元組長は、サラリーマン3人に群がるバングラデシュ人らを冷ややかに見ながら言った。
「いい加減の極め付きは、やつらのイスラム教に対する態度さ。『アニキ、豚の生姜焼き、あれほど美味い物はないね』って、ビールを飲みながら言うんだぜ」
イスラム教は戒律で豚を食べることを禁じている。アルコールも禁止だ。
「みんな、ランチに豚の生姜焼きを食ってるよ。もっとも、こっちから食わないかと誘うと建前として食べないがね。ビールなんて平気さ。自分たちの宗教に対してそうなんだから全体的にいい加減。何かあれば集まってくるが、バングラ同士の結束は固くない」
「やつらは日本人に対して独特の距離感を持っている。仲良くなりすぎないのさ。まるで知らなければと何もできないが、中途半端に知り合うとズルイことができる」
サラリーマンの男性たちがバングラデシュ人のキャッチと一緒に歩き始めると、元組長が情けなさそうに言った。
「カモられるぜ、あいつら。ここで一番弱いのは日本人、一番金を持っていないのも日本人なのにな」