つまり彼らは「かけ子」と呼ばれながらも、電話をかけるよりも、日本からかかってきた電話を受けて仕事をしていたというのだ。
前出の警視庁関係者によれば、タイで逮捕された15人が関与したとみられる詐欺事件の被害者は、特定の地方に偏らず、中高年を中心としながらも、20歳の若者まで含まれていた。捜査途中なので断言はできないと前置きした上で、被害者らは架空請求ハガキがきっかけの場合もあれば、メールのパターンもあるという。多くの日本人が想像する「特殊詐欺」のターゲットといえば裕福な老人をピックアップした名簿をもとに電話がかかってきた人たちだったが、今回の被害者たちは、以前の特殊詐欺被害者たちほど裕福な階層ではない。これこそが決定的な違いなのだ。
「ハガキやメールを送りつける班、電話をかけてきたターゲットに応じる海外班、金を受け取ったり引き出す現場班、それらを取り仕切る司令班が”四位一体”になり、さらにその上に金主がいる。金主でさえ一枚岩でなく、日本国内の反社勢力、暴力団、海外マフィアが複雑に関与している。情報に疎ければ、金がある老人だけに限らず、若者でもなんでもいいという手法なだけに、高齢者にばかり注意喚起をしていれば良いというわけではなくなったのです」(前出の元暴力団関係者)
ターゲットを綿密に調べ上げた知能犯罪から「アポ電強盗」のような雑な手法に、そして無差別にターゲットを探し出す「絨毯爆撃」的な手法に移り変わったことは、特殊詐欺の「劣化」とも思われてきた。そして現在は、より無慈悲な「フェーズ」に移行したといって良いだろう。騙されるような金がないから「自分には関係がない」と言い切れる人たちがますます少なくなっていく状況であることを理解されたい。