ライフ

名古屋・娘と準強制性交父の無罪判決、山田詠美氏の感想

はじめての事件ものを作品として書いた山田詠美さん

 2010年大阪西区のマンションで、3歳女児と1歳9ヶ月男児が母親に置き去りにされて死亡した。23才の母親は交際相手と遊び、再び自宅に戻ったのは約50日後だった。この誰もが衝撃を受けた「大阪二児置き去り死事件」に着想を得た作品が、山田詠美の新作『つみびと』(中央公論新書)だ。35年になろうという作家生活で、はじめての事件ものである。

『つみびと』は子供を置き去りにした母・蓮音、そして蓮音の実母・琴音、さらに亡くなった桃太と萌音の視点で展開する。(インタビュー・構成/島崎今日子)

──琴音と蓮音の人生を書きながら、詠美さんは何を思いましたか。

 お母さんの琴音は逃げる女で、娘の蓮音は逃げない女なんですね。だから、性暴力の被害に遭ったときは、「逃げるが勝ち」だと思いました。もちろん、しがらみからも、「逃げるが勝ち」。
みんな何かが起こったときって、「自分が悪いんだ」と思ってしまいがちだけれど、物事って連鎖反応で起こっていくもの。そこで逃げないで、「なんとかしなくっちゃ」と踏みとどまっていると、どんどん追いつめられて、最初に逃げられたときよりも酷いことになってしまうことが多い。酷いことに手を貸すことになってしまったり。蓮音がそうですよね。だから、両極端なふたりを書きながら、「逃げるが勝ちだよ」って。

 無責任になってもいいと思うんです。それは決して子供に対してということじゃなくてね。自分と子を守るためには、周囲の人たちへの気遣いは一切いらないし、しがらみを振りほどいていくしかないと思う。

──琴音に起こったことは現実にもいっぱいあります。3月に、名古屋の地裁で娘をレイプしていた父親の無罪判決が出ました。

 とんでもない判決ですよね、あれは。男の人だって、自分の娘だったら、妻だったら、母だったらと考えてみたらいい。あの判決に何も思わなかったらおかしいよ。子供は力がないんですよ。とくに近親相姦では、扶養者は生殺与奪権を握ってるんだから! 第一、現実の世界で父が娘とセックスしていいの?

 私、1980年代半ばにテレビの仕事でブレイクダンスやヒップホップの発祥地を見たくてニューヨークのブロンクスに行ったことがありました。当時のブロンクスはまだ危険地域で、「絶対にパトカーから出てはいけない」と言われてパトロールにつきあったんですね。そのとき、小さな公団みたいなところに大家族がぎっしり暮らしているところがあって、警官が「ここは生態系が壊れてるんだよ」と言ったの。父親にレイプされた娘が子供を産んでというのが何人もいた。母親は、やらせないと男が逃げてしまうからってそれを黙って見てる…。

関連キーワード

関連記事

トピックス

次の首相の後任はどうなるのか(時事通信フォト)
《自民党総裁有力候補に党内から不安》高市早苗氏は「右過ぎて参政党と連立なんてことも言い出しかねない」、小泉進次郎氏は「中身の薄さはいかんともしがたい」の評
NEWSポストセブン
チームには多くの不安材料が
《大谷翔平のポストシーズンに不安材料》ドジャースで深刻な「セットアッパー&クローザー不足」、大谷をクローザーで起用するプランもあるか
週刊ポスト
ブリトニー・スピアーズ(時事通信フォト)
《ブリトニー・スピアーズの現在》“スケ感がスゴい”レオタード姿を公開…腰をくねらせ胸元をさすって踊る様子に「誰か助けてあげられないか?」とファンが心配 
NEWSポストセブン
政権の命運を握る存在に(時事通信フォト)
《岸田文雄・前首相の奸計》「加藤の乱」から学んだ倒閣運動 石破降ろしの汚れ役は旧安倍派や麻生派にやらせ、自らはキャスティングボートを握った
週刊ポスト
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《不倫報道で沈黙続ける北島康介》元ボーカル妻が過ごす「いつも通りの日常」SNSで垣間見えた“現在の夫婦関係”
NEWSポストセブン
秋篠宮家の長男・悠仁さまの成年式が行われた(2025年9月6日、写真/宮内庁提供)
《凜々しきお姿》成年式に臨まれた悠仁さま 筑波大では「やどかり祭」でご友人とベビーカステラを販売、自転車で構内を移動する充実したキャンパスライフ
NEWSポストセブン
趣里(左)の結婚発表に沈黙を貫く水谷豊(右=Getty Images)
趣里の結婚発表に沈黙を貫く水谷豊、父と娘の“絶妙な距離感” 周囲が気を揉む水谷監督映画での「初共演」への影響
週刊ポスト
宮路拓馬・外務副大臣に“高額支出”の謎(時事通信フォト)
【スクープ】“石破首相の側近”宮路拓馬・外務副大臣が3年間で「地球24週分のガソリン代」を政治資金から支出 事務所は「政治活動にかかる経費」と主張
週刊ポスト
自身のYouTubeで新居のルームツアー動画を公開した板野友美(YouTubeより)
《超高級バッグ90個ズラリ!》板野友美「家賃110万円マンション」「エルメス、シャネル」超絶な財力の源泉となった“経営するブランドのパワー” 専門家は「20~30代の支持」と指摘
NEWSポストセブン
高校ゴルフ界の名門・沖学園(福岡県博多区)の男子寮で起きた寮長による寮生らへの暴力行為が明らかになった(左上・HPより)
《お前ら今日中に殺すからな》ゴルフの名門・沖学園「解雇寮長の暴力事案」被害生徒の保護者らが告発、写真に残された“蹴り、殴打、首絞め”の傷跡と「仕置き部屋」の存在
NEWSポストセブン
指定暴力団山口組総本部(時事通信フォト)
《外道の行い》六代目山口組が「特殊詐欺や闇バイト関与禁止」の厳守事項を通知した裏事情 ルールよりシノギを優先する現実“若いヤクザは仁義より金、任侠道は通じない”
NEWSポストセブン
志村けんさんが語っていた旅館への想い
《5年間空き家だった志村けんさんの豪邸が更地に》大手不動産会社に売却された土地の今後…実兄は「遺品は愛用していた帽子を持って帰っただけ」
NEWSポストセブン