最新の車両や機器を導入した方が、大幅に人件費を削減できるので経営効率はよくなる。しかし、新型車両は10億円、設備は1億円以上の費用が必要になる。また、小湊鉄道の沿線を歩いていると、警報機も遮断桿もない第4種踏切が多いことに気づかされる。安全運行のためにも、踏切の設置も進めなければならない。これらの費用は、莫大になる。
ほかの鉄道会社と同様に、小湊鉄道も利用者の減少が続いている。ローカル鉄道が簡単に捻出できる金額ではない。そのため、車両や設備の更新を一気に進めることは難しい。
ほかのローカル線と同様に、小湊鉄道も沿線人口が減少している。そして、年を経るごとに利用者は減っていく。
収入の先細りが見える中、小湊鉄道は座して死を待とうとしなかった。通常の鉄道会社であれば駅ビル、最近なら駅ナカを整備して駅周辺の開発をと考える。小湊鉄道はみずからが“逆開発”と呼ぶ、奇想天外な沿線開発を始める。
「2017年に始めた逆開発は、駅前に森をつくろうという考え方から始まっています。養老渓谷駅の駅前ロータリーはアスファルト舗装をはがし、そこに土を入れて、木を植えました。一回の作業で終わりにするのではなく、常に手入れの作業をしています。10年かけて森の範囲を広げていく計画です」(同)
高層のオフィスビルを建て、大きな商業施設をオープンさせる。沿線開発は、そうやって多くの人を集めようとするのが一般的だ。
逆開発は文字通り、開発を逆におこなう。逆開発は駅前を発展させるのではない。マイカーなんて概念がまだない、鉄道が交通の主役だったときと同じ風景に戻していく。
養老渓谷駅は、秋になると遠方からハイキングに訪れる客でにぎわう。小湊鉄道は養老渓谷駅を訪れるハイキング客のために、山と駅とをつなげて切れ目のない風景をつくることにした。こうした考えによって、養老渓谷駅は逆開発されることになった。
小湊鉄道沿線の森づくりは、養老渓谷駅だけにとどまらない。月崎駅前にも森が広がっている。