ライフ

京都祇園祭 古都を練り歩く山鉾の意外な秘密

古都京都の夏の風物詩。一度は見に行きたい(時事通信フォト)

 京都・八坂神社の例祭にして、東京・神田祭、大阪・天神祭とともに日本三大祭りの一つに数えられる「祇園祭」の季節がやってきた。古都の伝統行事だが、その実態は「国際色」に彩られているという。歴史作家の島崎晋氏が解説する。

 * * *
 京都の夏の風物詩といえば、何といっても7月1日から31日まで開催される祇園祭である。そのなかでもっとも盛り上がるのは17日夜の神幸祭(しんこうさい)に先駆けて行なわれる前祭(さきまつり)山鉾巡行と、24日夜の還幸祭(かんこうさい)に先駆けて行なわれる後祭(あとまつり)山鉾巡行の二つで、前者では23基、後者では10基の山鉾(やまぼこ)という山車が市街を練り歩き、祭に興を添える。

 祇園祭は平安時代の869年に災厄除けを願って始められたというから、その歴史は1000年以上に及ぶ。戦乱の時代には中断を、京都の財政事情が苦しい時代には規模縮小を余儀なくされながら、先の大戦後は滞りなく続けられた。2014年には、49年ぶりに山鉾巡行が前祭と後祭の2回行なわれる元のかたちに復活した。

 ユネスコの無形文化遺産に登録されただけあって、山鉾巡行は見どころ満載。山鉾の大きさや形は一様でないが、もっとも大きなものでは車輪の直径が2メートル、天辺に聳える鉾頭(ほこがしら)の先までを含めれば高さが25メートル、重さが12トンもあり、50人もの曳き子を必要とする。最小のものでも30人の曳き子を必要とするというから、引き網漁レベルの膂力(りょりょく)と体力が求められるのだ。

 その山鉾の装飾は、意外なことに国際色が溢れている。遣唐使の派遣など、何事も中国を手本にする時代に始まったことからすれば、中国の故事を題材にした絵や中国的な文様が多用されているのも納得だが、実はそれ以外にもインドやイラン、さらにはヨーロッパ由来のものも少なくない。

 とくに目立つのは絨毯やタペストリーだ。タペストリーとは壁掛けや椅子の背当てなどに用いる綴織の織物のこと。「鯉山(こいやま)」という山鉾を例にとれば、ここで用いられているタペストリーは1枚を9分割したものの一つで、修繕の際に「BB.」というベルギーのブラバントという地名を指す頭文字が見つかったことからベルギー王立歴史博物館に調査を依頼したところ、古代ギリシアの代表的な叙事詩『イーリアス』の一場面を描いた5枚連作の1枚であると判明した。制作年代は1600~1620年代、作者がニカシウス・アエルツという人物であることまでがわかった。日本への伝来はオランダ商館の献上によるか、慶長遣欧使節か天正遣欧使節の手土産のどれかであろうが、それを特定するまでには至っていない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

12月9日に62歳のお誕生日を迎えられた雅子さま(時事通信フォト)
《メタリックに輝く雅子さま》62歳のお誕生日で見せたペールブルーの「圧巻の装い」、シルバーの輝きが示した“調和”への希い
NEWSポストセブン
宮崎あおい
《主演・大泉洋を食った?》『ちょっとだけエスパー』で13年ぶり民放連ドラ出演の宮崎あおい、芸歴36年目のキャリアと40歳国民的女優の“今” 
NEWSポストセブン
悠仁さまが2026年1月2日に皇居で行われる「新年一般参賀」に出席される見通し(写真/JMPA)
悠仁さまが新年一般参賀にご出席の見通し、愛子さまと初めて並び立たれる場に 来春にはUAE大統領来日時の晩餐会で“外交デビュー”の可能性も、ご活躍の場は増すばかり
女性セブン
大谷翔平選手と妻・真美子さん
《チョビ髭の大谷翔平がハワイに》真美子さんの誕生日に訪れた「リゾートエリア」…不動産ブローカーのインスタにアップされた「短パン・サンダル姿」
NEWSポストセブン
日本にも「ディープステート」が存在すると指摘する佐藤優氏
佐藤優氏が明かす日本における「ディープステート」の存在 政治家でも官僚でもなく政府の意思決定に関わる人たち、自らもその一員として「北方領土二島返還案」に関与と告白
週刊ポスト
会社の事務所内で女性を刺したとして中国籍のリュウ・カ容疑者が逮捕された(右・千葉県警察HPより)
《いすみ市・同僚女性を社内で刺殺》中国籍のリュウ・カ容疑者が起こしていた“近隣刃物トラブル”「ナイフを手に私を見下ろして…」「窓のアルミシート、不気味だよね」
NEWSポストセブン
石原さとみ(プロフィール写真)
《ベビーカーを押す幸せシーンも》石原さとみのエリート夫が“1200億円MBO”ビジネス…外資系金融で上位1%に上り詰めた“華麗なる経歴”「年収は億超えか」
NEWSポストセブン
ハワイ別荘の裁判が長期化している(Instagram/時事通信フォト)
《大谷翔平のハワイ高級リゾート裁判が長期化》次回審理は来年2月のキャンプ中…原告側の要求が認められれば「ファミリーや家族との関係を暴露される」可能性も
NEWSポストセブン
神田沙也加さんはその短い生涯の幕を閉じた
《このタイミングで…》神田沙也加さん命日の直前に元恋人俳優がSNSで“ホストデビュー”を報告、松田聖子は「12月18日」を偲ぶ日に
NEWSポストセブン
高羽悟さんが向き合った「殺された妻の血痕の拭き取り」とは
「なんで自分が…」名古屋主婦殺人事件の遺族が「殺された妻の血痕」を拭き取り続けた年末年始の4日間…警察から「清掃業者も紹介してもらえず」の事情
(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
熱を帯びる「愛子天皇待望論」、オンライン署名は24才のお誕生日を節目に急増 過去に「愛子天皇は否定していない」と発言している高市早苗首相はどう動くのか 
女性セブン
「台湾有事」よりも先に「尖閣有事」が起きる可能性も(習近平氏/時事通信フォト)
《台湾有事より切迫》日中緊迫のなかで見逃せない「尖閣諸島」情勢 中国が台湾への軍事侵攻を考えるのであれば、「まず尖閣、そして南西諸島を制圧」の事態も視野
週刊ポスト