窒息に耐えられるゴキブリは存在しないし、仮に訓練して息を長く止められるようになっても、その能力は子孫に継承されないことになる。
とすれば、殺虫剤で死なないゴキブリに対しては台所洗剤が効くし、将来的に効かなくなることもないわけで、これは新しい殺虫剤のアイデアになるのではないか。
◆殺虫剤メーカーの見解は?
そういう殺虫剤ができないか、殺虫剤メーカーのアース製薬に提案してみた。
「そもそも、殺虫剤に抵抗性をもつゴキブリが激増しているという話が、少々、大袈裟に言いすぎているように思います。ほんのわずかずつですが、抵抗性をもつゴキブリが増えているのは事実ですが、そのように早いペースで増えるのであれば、すでにそういうゴキブリばかりになっているはずです」(同社マーケティング総合企画本部・渡辺優一氏)
言われてみれば確かにそうだ。殺虫剤なんて日本中で何十年も前から使われているのだから、すでにあらゆる殺虫剤が効かなくなっていても不思議ではない。
「弊社の製品では、スプレータイプも抵抗性をもたせないよう薬剤をミックスして使っていますし、ホウ酸ダンゴのように餌を食べさせて殺すタイプもあり、これは薬剤抵抗性ゴキブリにも効きます。冷却して動きを止めて天然ハッカ油で殺すスプレータイプもあります。『ごきぶりホイホイ』は餌で誘って捕まえるだけで、薬剤は使っていません」(渡辺氏)
薬剤を噴霧するより、毒餌を食べさせるほうが殺虫効果は高く、抵抗性も獲得しにくいという。
ただ、毒餌で巣の中のゴキブリを全滅させるのが大事だというのはよくわかるが、突如として出現したときの迎撃に毒餌や『ごきぶりホイホイ』は無力である。また、夏の夜に外を歩いていると、たまにゴキちゃんが“お散歩”しているのを見かけるが、家の中に巣がなくても、あの子たちはよそからやってくるのだ。冷却するタイプも、がっつり浴びせないと動きを止めない──なので、やっぱり台所洗剤が有効なのではないか。
「実はそういう趣旨の取材を何度も受けているのですが、回答は同じで、ゴキブリを溺れさせるくらいかけないと死なないので、床や壁が洗剤でべちゃべちゃになって掃除が大変ですよね。
この話をしてもなかなか信じてもらえないのですが、殺虫剤の薬剤は人間が吸引して体に入っても分解される成分でできているので、仮に少々吸い込んだとしても健康被害は起きません」(渡辺氏)
市販の殺虫剤はゴキブリには有害でも人間には無害だという。
しかし、それでも、である。筆者は別にゴキブリを殺したいわけではなく、やつらが好き放題に走り回ったり飛んだりするのを止めたいだけなのである。結果的に殺すことになるけども、たとえ床が洗剤まみれになろうとも、やつらの動きを止めたい。願いはそれだけだ。